結果俺たちは全員同じ部屋で一泊することになった。夕飯やお風呂を終えて布団に入ったが、眠れるわけがない。ちなみに自来也先生は取材とかわけのわからないことを言って部屋を出て行ったので不在である。どうにもこうにも眠ることが出来ず俺は布団から出る。すると、チヒロも同じだったのかもぞもぞと布団からはい出てきた。
「…ミナトも?」
「ん」
俺とチヒロは二人そろってため息をつく。なまえのことが嫌だからではない。むしろその逆で。好きな女の子が隣で寝ていて緊張しない人間がいるわけがないのである。別に大人の考えるような変な気持ちではないけど。俺たちは眠っているなまえを起こさないように、そっと窓の外のベランダに出る。もう結構な時間のはずなのに街はまだ明るかった。
「ミナトさ、なまえのこと好きだろ?」
「ん、好きだよ」
チヒロの言葉は唐突であったが、俺は言うべきかどうかなんて一つも迷わず即答した。なんとなくここで返答が遅れたり、否定したりしようものなら少し大変なことになりそうな気がしたから。チヒロはつぶやくように「そうか」と言ったきり明後日の方を見ていた。やはりというかなんというか。口にはしないけど、たぶんチヒロもなまえを想っているのだろう。
「なあ、お前にいいこと教えてやろうか?」
「ん?なにそれ?」
問うとチヒロは焦らすようににやにやした。そのことに俺は特に突っ込みもせず、黙って続きを待った。体内時計にして約三十秒。やっとチヒロは続きを言う気になったらしい。
「なまえのやつ、息のなかったお前に人工呼吸したんだぜ」
「じっ、!?」
人工呼吸というのはつまり。そんなの考えるまでもなく。俺の顔に熱が集中した。衝撃的だった。暴露してしまえば、俺は意識を失っていたが、そのような夢を見たような気がしていた。それはあくまで夢だと思っていたのに。俺の勝手な妄想だと思っていたのに。それは現実だったということなのか。動揺する俺を尻目にチヒロはより一層にやにやしている。
「でも、なまえがああでもしなかったらお前は助からなかったよな」
「ん、俺もそう思うよ。なまえにはすごく感謝してる」
「…そうか」
頷いたあとチヒロはまだ何かをつぶやいたようだったが、聞き取れなかった。そこで雑談は終了し、再び部屋に戻り布団に入ったが、やはり一睡もすることが出来ずに夜明けを迎えたのだった。
(なんだ、相思相愛じゃん)(俺の入る隙なんてないよな)
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