病院についてあまり時間がかからずにミナトが診察室に呼ばれる。まさかわたしまで一緒に中に入るわけもいかないので、おとなしく待合室の椅子に座って待つことにする。

まわりを軽く見回して、病院というのはどこのも大体同じようなつくりなのかな、とどうでもいいことを思う。両親や兄が亡くなったと病院に呼ばれたときのことを思い出し、身震いした。

あんな思いはできればもう二度としたくない。ふいに肩に手を置かれて驚いて顔をあげれば、いつの間にか診察を終えていたらしいミナトがわたしの目の前に立っていた。

「なまえ?」

あまりにも優しい声でミナトがわたしの名前を呼ぶから、思わず抱きついてしまった。きっとわたしは、安心したかった。大丈夫だと言ってほしかった。

「ん、大丈夫だよ」

胸に暖かいものが流れてゆくのを感じた。この感情を知るにはわたしはまだ幼いかもしれない。けれどもちゃんと知っている。両親や兄に抱いていた愛とは違う。これは確かに恋だ。わたしはミナトが好き。心から大切な人。

「ありがとう」

わたしの頭を撫でてくれているミナトにお礼を言うのが精一杯で。好き、なんて言えるのは何年も先だろう。もしかしたら、言えるときは来ないかもしれない。でもいつかただの幼なじみなんかじゃなくて恋人同士になれたら。なんて願ってしまう。

軽く感傷に浸っていると、視界の端に白く長い髪が入ってきて、それが自来也先生とチヒロが来たのだとわかり、わたしは慌ててミナトから離れた。ひとり慌てるわたしをミナトは不思議そうに見ていた。

「おお、ミナトになまえ。もう終わったか?」

「な、なにがですか?」

「何って診察に決まってるじゃん」

「え、あ、そうだよね…!」

自来也先生やチヒロの言葉に翻弄されるわたしは滑稽だと思う。しかも慌てているのはわたしだけで少し悲しくなる。きっと意識しているのなんてわたしだけなのだろう。そう思うともっと悲しくなる。

「どこか様子が変だのォ。だがまあよい。一先ずチヒロが探してきた宿に行くとするかの」

暫く黙っていることに決め込んだわたしは頷いてみんなのあとをついて歩いた。病院から少し歩いたところに宿はあった。ぱっと見た感じ結構よさそうなところであった。みんなよりも一歩遅れてわたしが中に入ると、わたし以外の三人の間に微妙な雰囲気が流れているのが見てとれた。わたしが入ってきたのに気がついた三人、特にチヒロが少しばつの悪そうな顔をした。

「え…なに?」

「悪いなまえ!」

だんまりを決め込んだはずのわたしがあっさり疑問を口にすると、チヒロが勢いよく謝ってきた。そのことにますますわけがわからなくなった。なにもされた覚えがないのだけれども。

「なまえ、怒らないで聞いてね?」

「…ミナトまで?」

「じれったくてかなわん。チヒロのやつはな、一部屋しか予約をとらなかったらしい。よってワシら全員同じ部屋ということになるのォ」

自来也先生の言葉にわたしは首を傾げた。それのどこがいけないのだろう。特に謝る理由にもならないと思うのだが。わたしはたっぷり間をおいて口を開いた。

「えーと。普通ですよね?」

わたしが言えば、ミナトとチヒロは驚いた表情し、自来也先生は若干呆れたような表情をしていた。なぜそんな顔をされなければならないのかよくわからなかったが、よくよく考えてみればなんとなくその理由がわかり、少し焦った。みんなはわたしがくの一だから気を遣ってこう言ってくれたのだと。

(でももう遅い)



prev - next

back