なまえに病院に連れていってもらうように命じられた俺は、彼女の肩を借りながらその道程を歩いていた。密着する身体同士に緊張しないはずもなく、なまえに俺の鼓動が聞こえてしまわないかと内心焦っている。それと同じくらいに情けないという感情が襲ってくる。だって、本来ならば俺がなまえを守らなければならないのに、逆に俺が守られてしまったから。約束したのに。あんなこと言ったくせに、なまえはそう思っていないだろうか。

「どうしたの、どこか痛む?もう少しゆっくり歩いた方がいい?」

いつの間にか俺の歩く足は止まっていたようで、不審に思ったらしいなまえがこちらに視線を向ける。俺もなまえをみると、顔が思ったよりも近くてこんなときだというのに、心臓がばくばくと音を立てたのがわかった。俺はそれを隠すように「ううん」と首を横に振った。

「俺、格好悪いよね」

「え?」

「なまえに助けられて嬉しいけど、…情けない」

そう。なまえに助けられたことはとても嬉しい。だってそれは、少なからずなまえが俺を大切だと思ってくれているからだとわかるから。でもやっぱり不安は拭いきれなくて。幻滅されてなまえに嫌われたら。だなんて、俺は女々しいのかな。本当はこんなこと言うべきではないのかもしれない。

「ミナトは格好悪くも情けなくもないよ。いつもわたしを助けてくれるでしょ?だから今回はその恩返しをしただけ。全然足りないけどね!」

ところがなまえはウインクしながらこんな言葉をくれた。それは俺の予想に反したもので。驚きを隠せなかった。なまえはいつだってこんな格好悪い俺を受け入れてくれる。

「それにわたしは満足してるの。…大切なひとを守れたから」

どうしよう。俺は忍なのになまえの言葉に驚いてばかりだ。でも今度は全然ネガティブにはならなかった。むしろ笑顔になった。「大切なひと」鈍感ななまえにはまだまだ想いは届かないけど、こんな言葉をもらえるなんて俺は幸せ者なのかもしれない。

「…ん!ありがとう、なまえ」

俺が言えば、なまえも嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔を息がかかりそうなくらいの至近距離で見つめて、心臓が一段と高鳴ったのを感じた。

(また一歩近づけたね、俺たち)



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