意識を取り戻したばかりで無理をさせてはいけないと、自来也先生はミナトをおぶって渦の国までの残りの道程を歩いた。わたしがミナトをおぶると申し出たが、もしまたなにかあっては困る、と自来也先生に丁重に断られてしまい現在にいたる。戦闘の前に先生が言っていたとおり、渦の国まではそう時間もかからずに到着することができた。渦の国への入り口を目の前に自来也先生はミナトを降ろした。

「ミナト、ここからはなまえに支えてもらうとよいのォ」

きっと自来也先生は、わたしの気持ちをくんでくれたのだろう。そのことに嬉しさを感じながらわたしは頷くと、ミナトに肩を貸した。するとミナトは申し訳なさそうな表情をしながら、わたしの肩に腕を回した。

「…ごめん」

「なんで謝るの?気にしないで!」

「ありがとう」

こんな会話をしながら、わたしとミナトは同時に渦の国入りした。わたしは自分が思っていたよりもまだ緊張していたようで、一気に疲れたような気がした。でもそれは、いやな疲れではない。なぜかって言われても説明は出来ないけれども。

「それじゃなまえ。念のためミナトを病院に連れていってやってくれんかのォ」

「自来也先生は?」

まるで自分はいかないとでもいうような物言いの自来也先生にわたしは首を傾げながら、疑問をぶつけてみた。すると自来也先生は今度は当然だというような顔をしながら口を開いた

「ワシはこれを届ける都合がある。チヒロには宿探しをしてもらわなければならん。よってなまえ、お前は負傷したミナトを病院に連れていけ」

なるほど。これは隊長としての自来也先生からの命令なんだ。わたしたちはそう悟って素直に頷いた。それをみた自来也先生は満足そうに微笑む。渦の国に入ってしまえば、別々に行動してもきっと安心なのだろう。わたしたちはもう一度目を合わせて頷きあうと、背を向けて別々の道に進んだ。病院を目指して歩いていると、突然ミナトの足が止まった。

「どうしたの、どこか痛む?もう少しゆっくり歩いた方がいい?」

「…ううん」

わたしが次から次へと聞くが、ミナトは首を横に振るだけであった。一体どうしたのだろうと隣のミナトに視線を向けると、その顔が思ったよりも近くて、わたしは頬が熱くなるのを感じた。それと同時につい先ほどのミナトを助けたときのとっさの行動を思い出し、より一層頬に熱が集まった。

「俺、格好悪いよね」

「え?」

「なまえに助けられて嬉しいけど、…情けない」

ミナトはぽつりぽつりと話すとうつむいてしまった。これは弱みを見せてくれているということなのだろうか。そう考えてわたしは胸がきゅんとした。それはつまり、わたしがミナトを信頼しているように、ミナトもわたしを信頼してくれているということで。落ち込んでいるミナトとは対称的にわたしの頬は緩みそうだった。

「ミナトは格好悪くも情けなくもないよ。いつもわたしを助けてくれるでしょ?だから今回はその恩返しをしただけ。全然足りないけどね!」

わたしはたまにミナトがやっているようにウインクしてみると、彼はとても驚いた表情をしていた。

「それにわたしは満足してるの。…大切なひとを守れたから」

今度もミナトは驚いたように目を見開いた。けれども、その表情はすぐに笑顔になって。先ほどまでの鬱々とした表情はもはや消え去っていて、わたしは安心する。

「…ん!ありがとう、なまえ」

相手の息づかいがわかってしまいそうなほどの至近距離でミナトが満面の笑みで言うものだから、危うくわたしの心臓は爆発しかけた。なにこれ。ミナトってば、もしかしてわざとやってる?ついついそう思ってしまうわたしがいた。

(また一歩、近づけたのかな)



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