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「バトルチップウェーブアーム、トリプルスロットイン!!」
「バトルチップソード、ワイドソード、ロングソード、スロットイン!!」
「バトルチップバルカン、トリプルスロットイン!!」
少年……いや、青年三人の声が重なる。
「「「プログラムアドバンス!!」」」
『パワーウェーブ!!』
『ドリームソード!!』
『ムゲンバルカン!!』
津波の如き勢いの波がバトルフィールドを改造ウィルスごと覆い尽くし、其処に技名通り、無限に等しき数の銃弾が撃ち込まれていく。これだけでも相当だと言うのに、駄目押しと言わんばかりに、虹色の一閃。
結果、哀れな改造ウィルスは一体残らず消滅し。見事、シェロ・カスティロエリアはネット犯罪者の手から守られたのだった。
It's an interesting nightmare
「別に無理して来る必要無かったんじゃないか、ライカ?」
「それは其処の卵の殻に言ってやれ」
「誰が卵の殻だ茸の笠。俺は無理にセイバーの仕事はしていない。…光はどうなんだ」
「俺、今日の講義二限までだから問題無し」
飛び級で高校をすっ飛ばし、大学に入った熱斗だが、今日は余裕があるようだ。何時もはレポートやら何やらに追われているが…。
炎山にもIPC副社長、オフィシャルの仕事、ライカには軍部の仕事が舞い込むので、今日のような日は本当に珍しかった。ネットセイバーが三人共揃う日は。
『熱斗君、報告に行かなきゃいけないでしょ。プラグアウトおねが…』
ロックマンの高い声が、突如途切れた。
「どうしたんだ、ロックマン?」
訝しげな熱斗達に答えたのは、ロックマンではなかった。
『ライカ様、後ろです!!』
切迫したサーチマンの声に、反射的に振り返ったライカの水晶色の瞳に映ったのは、今まさに自分達に何かを投げつけようとしている、今回の事件の犯人と思われる男。
とっさに、コートの下に隠し持っている銃を取り出そうとしたが、動きを察知した炎山の手が伸びてきて、腕を掴む。−そうだった、ニホンで発砲は御法度だ。
『炎山様、光、ライカ!!』
ブルースの声が管制室に響き渡る。
それとほぼ同時に、部屋中が、光に包み込まれた−
「熱斗君!!」
「炎山様!!」
「ライカ様!!」
現実世界を映したモニターを見上げていた三人だが、主に何かを投げつけられた瞬間、血相を変えて名を叫んだ。何だかんだで主馬鹿の三人である。逃げ去る犯人の背を貫く視線が殺傷力を持っていたら、と今ほど思う事はない。
投げられたのは恐らく、閃光爆弾だ。軍属と言う立場上、サーチマンは何度もそれを見ていたが、今のものは初めて見る型だった。
まあ、何にせよ、閃光爆弾には殺傷力は無いので怪我は無いだろう。
「熱斗君、大丈夫?」
隣に立つロックマンが、目を腕で庇った体勢のまま突っ立っていた熱斗に呼び掛ける。…が、返事が無い。どうしたのか。
「……熱斗君?」
首を傾げたロックマンがもう一度呼びかけた、その時。
熱斗達の体が、ぐらりと傾き、そのまま倒れてしまった。
「え!?」
「馬鹿な……閃光爆弾程度に人を気絶させる威力は無いはず!」
「……閃光爆弾に見せかけた別の物、かもしれんな」
冷静に推測を立てたブルースは、そのまま振り返った。バイザーの内側の黒曜石の瞳には、先程まで次々と改造ウィルスをけしかけてきたナビが映っている。
ニタニタと笑うそいつに、ブルースは容赦なく剣を向ける。
「今の兵器は何だ。此処でデリートされたくなくば、答えろ」
「…口外すんなとは言われてんが……お前らに目を付けられてデリートされねえ保証は無えしな。良いぜ、教えてやる」
降参したように両手を上げたナビを見て、ブルースは剣を下ろした。が、視線は外さない。ロックマンとサーチマンもだ。
「……今の兵器は俺の御主人様の試作品でな。爆発した光を受けた人間の精神をインターネットに送り込むっつー代物だ」
「……!?」
驚きのあまり、背後のモニターを振り返る。三人のオペレーター達は目を堅く閉ざして倒れたまま、動かない。ともすれば、寝ているようにも見える。
(専用の転送装置の応用!?でも…)
事実ならば、光正やワイリー並みの−もしかすると、彼等以上かもしれない−科学技術を持った人物が、先程逃げ出した今回の事件の犯人、と言うことになる。
逃がしたのは痛かった。
「おっと、俺が知ってんのはこれだけだ。戻し方は御主人様しか知らないぜ」
「……ならば、仕方がない。貴様だけでも捕らえる!!」
戻し方を知っていようがそうで無かろうが、こいつも犯人なのだから捕まえるのは当然である。
ケケッと笑いながら、ワープの予兆を見せ始めたナビに対して、サーチマンがスコープガンの銃口を向ける。ロックマンも、右腕のバスターを向けた。そして、二人同時に発射する!!
確実に敵の両足に当たると思われたそれらは、しかし、後僅か、と言うところで当たらなかった。−ワープの方が、早かった。
「どうだ、サーチマン。追えるか?」
「………いや。プラグアウトされたようだ」
一つ一つの電脳世界を越えた先にも狙撃出来るサーチマンでも、PETに逃げられてはどうしようもない。
「…兎に角、今の話がホントなら……熱斗君達がヤバいよ!早いとこ情報集めて、捜そう!!」
切羽詰まったその言葉に、二人は頷いた。
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