思い付く
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十二月二十五日。世間様では「クリスマス」とか言う、恋人達が馬鹿騒ぎだの二人きりの時間だの何だと言い募って散財することへの免罪符として機能する日にち。

しかし、例えリアルの人間が浮かれようが、ネットのナビが口元をにやつかせようが、関係無い人種とてこの世の中には存在している。

一人は今現在、永遠とテキストデータを所定の位地に区分し続けている自分。今一人は黙々と、期限の迫りつつある書類の処理を実行し続ける己が主。

ニホンが世界に誇る大企業伊集院PETカンパニー、略してIPC。その副社長である伊集院炎山とそのネットナビたるブルースに、クリスマス休暇などと言うものは存在していない。勿論部下にはこの日の為に有給休暇を申請、取得している者はいるだろう。責任感の強い主には、それが出来なかっただけの話だ。

とはいえ、流石に正月休みは欲しいと言うのが主の、と言うより自分の本音である。普段から身を粉にして働きがちな主に少しでも身体を休めて欲しいのだ。

そんなことをツラツラ考えるている間に、テキストデータとはまた異なる形式のデータを受信した。オート電話。

「炎山様」

『何だ、ブルース』

「ライカからオート電話が掛かっています」

『アイツから?』

浮かび上がった2Dモニターには、声色を確認するまでもなく訝しげな主が映る。

「繋ぎます」

言いながら、新しい2Dモニターを表示する。映り込んだのは相も変わらず吹雪の冷たさと厳しさを併せ持った無表情の少女、ライカだ。珍しく見慣れた軍服を着用しておらず、代わりに彼女にしては装飾の多いカクテルドレスと毛皮のマフラーを身に付けている。

『どうした?何か用件があるのなら、手短に済ませて欲しいんだが』

『……仕事中か?』

『そっちこそ』

『あいにく、お開きとなったところだ』

彼女はシャーロでは一、二を争う名家であり金持ちの出だ。つい最近まではお家事情によりその血筋を秘匿されていたのだが、やはり諸々の事情により自らの身分を明るみにした今、彼女を自陣に取り込もうとしている輩達に引っ張りだこになっていると聞いた。

そんなわけで、今や社交界の一時の花と相成った彼女がこうして(と言うより知り合った頃から)オート電話をしてくることは滅多にない。と言うことは、主に一刻も早く伝えたい事があるのだろうか――

『で、なんだ』

『大したことではない。年明けまで伊集院の家に滞在させてもらえるかどうか、聞きたかっただけだ』

『「……は?」』

想定外……とまでは行かないが、それでも思わず声を漏らすには充分な問だった。

と言うのも、主は現在とある高層マンションで一人暮らしの身である。一応通いの家政婦はいるが、「通い」だけあり常駐しているわけではない。何よりも、

『お前な……男がそう簡単に女を自宅に泊めると考えているのか?』

これに尽きた。

どうもライカには、「男女の性差」と言う観念が抜け落ちているらしい。軍隊で生き抜いて来たからなのか家族が男ばかりからなのかは知らないが、とにかく簡単に頼まれても困る。それに、あの過保護な父親と兄に何を言われるか。

しかし。

『気にすることか?』

『普通は気にするんだ!』

この調子である。

『別に構わないだろう。婚約者が泊まりに行くぐらい』

『それはお前の出任せだろうが!生け贄にされたこっちの身にもなれ!』

終わりそうにない。あらゆる意味で。

推察されるに、一応深窓の令嬢扱いされているこの娘は年末年始の「避難」のために、ニホンの「恋人」のもとに数泊したいのだろう。ただし、主達の間柄は「戦友」であって、そんな色恋沙汰の繋がりはないのだが。当然、婚約者などと言うやんごとなき関係でもない。

にもかかわらずライカが主をそんな風に扱うのは、とあるパーティーに出席した際、何処かの子息に言い寄られた彼女がとっさについた嘘に原因がある。つまり、「自分には既に婚約者がいる」だのなんだの。

どうもその場しのぎにはなったらしい。しかし、元々「かの御令嬢は伊集院の御曹司と親しいようだ」と言う噂があったせいで、「御令嬢の婚約者は伊集院の御曹司だ」と言う根も葉もないが、将来的には有り得なくもないような、そんな戯言だけが独り歩きするようになった。

結果、主までもが謂れの無い追求を受け続ける羽目にあうことと相成ってしまった。はっきり言って、迷惑以外の何物でもない。おまけ付きに、双方の親が何とは無しに「その気」になっている。このままだと本当に婚約させられかねないぐらいには。

そして、それを彼女は「その場だけ」に留まらせるつもりが更々無い。に違いない。

『良いじゃないか。そっちだって、本当はまんさらでもないんだろう?』

『寝言を言うな!』

切り捨てる主の声には確かに、僅かな上擦りが乗っている。が、黙っておくのが賢明だろう。

『取り敢えず、泊まるんなら光のところにでも行け!』

『断る。年末年始のアイツの家は煩くてかなわん。それに兄さんが追い掛けてくる』

『じゃあ大人しく実家に籠ってろ。それか軍の宿舎で年明けを迎えろ』

『無理だ。もう有給を取った』

「……」

仕事に戻ろう、そう決意して積み重なったテキストデータを一つ取り上げた。主とその友人の喚き合う声はBGMには少し大き過ぎるし、クリスマスソングとしては雑音気味だ、そう感じながら。



13/12/26
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クリスマスには遅刻したので思い切って年越し風味も混ぜてみた。
アニメ設定。ライ炎ライ風味?になりました。最早このサイトのアニメライカが名家出身であることが当たり前になってきている。

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