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「ネビュラの輸送艦を制圧、ね……」

作戦会議にて決定した事項を改めて舌に乗せる。

今回ターゲットに定められた輸送艦とは、ある組織の持つ油送タンカーである。その組織とはリーガル財閥――Dr.リーガル率いる一大財閥。しかし、彼がネビュラ総司令である疑いが濃厚な今、シロである可能性は限りなく低い。おまけ付きに、あらかじめ内定を行っていたアクセルのある報告もある。制圧に当たって問題となる事象もない。となれば、制圧を行わない理由がない。

この作戦を実行するメインメンバーは六人――自身と主、ライカとサーチ、そして光熱斗とロックマン。またタンカー周辺にヘリを待機させ、必要に応じてサブメンバーを投入できるようにまでするという。

(相手が相手だ。当然の処置だが……)

随分と性急にも思える。何せ、アクセルからの報告が届いたのはついど半日前のことであるらしいのだ。相手の補給路の一つを断つ作戦を僅か六時間で決められるものだろうか。

「……あまり、俺が口出しすることではないか」

思考を切り上げる。自身はあくまで主の――炎山の手足。指揮官でも司令塔でもない。

抱えた書類を持ち直す。別の任務に着いたゼロやら何やらが置き土産にして行ったらしい報告書の束を前にしていたエックスがあまりにも不憫だったので、少しばかり手伝うことにしたのだ。今は作戦決行の二日前、気分転換にも丁度良い。

一方で、自分の恋人に対して、大事にしている割には困らせすぎではないだろうか――今ここにはいない金髪の剣士に対しそう思いながら、苦笑する。あの二人の仲は最早割り込むことも出来ないレベルのものだ。故かもしれない。

幾度か角を曲がる。と――

「随分と余裕そうだな?」

「……」

出た。神出鬼没の域にまで達している吸血鬼。

ブルースは舌打ちすると、先の角から音も無く現れたライカの脇を通り抜けようとする。が、伸びてきた腕に遮られた――話があるのだろうか。だとすれば、話題は一つしかあるまい。

「何だ?」

わざとすっとぼけた声を出す。吸血鬼の表情に変化は無い。つまり、冷然とした無表情に、少しばかりの苛立ちをを乗せたままだ。大した効果はなかったらしい。

「いつまでうちの精霊をを振り回してくれるつもりだ?」

「!」

「あいにくだが、いつまでもお前の優柔不断ぶりに付き合わせるつもりはない」

つまりは一刻も早く答えを出せ、というのだろうか?

どうも自身の契約精には過保護気味な青年の、声無き糾弾に視線を逸らしてしまう。全く持って彼の言うとおりであるから尚更、反論は出来ない。

「……それで?」

「……」

いよいよ睨めつける視線がきつくなる。が、やがてふっと表情が解けると、ライカはただ疲れたような溜め息をついた。どうも、余計に呆れさせてしまったようだ。

「もういい。貴様が底知れない阿呆だと分かっただけでも十分だ。……ったく」

「他に何かあるのか」

「いや。いつか貴様が自分から破滅してくれるのを期待しているだけだ」

買い出しのリストを読み上げるようなに平板な声色で吐かれた呪詛の言葉を、表面上は何とも思わないように受け止めたブルースの表情は実に冷めていた。この青年にはすこぶる毛嫌いされているのをとっくの昔に悟っていたからである。

一体自分が何をしたと――いや、仕出かしていたか。彼に、というより彼の忠実な下僕に対して。

既に靴音も立てずこの場を立ち去り始めている吸血鬼の内臓を捻り出す己が姿を夢想しながら、ブルースもまた目的地へ向かう歩みを再開させる。

(破滅だと?……貴様が願うまでもない)

それを誰よりも望んでいるのは、他でもない自分自身だ。そして、その防波堤となっている者も良く分かっている。

早く決着を着けなければならない、そう分かっていながら尚も詳細に考えることを放棄した彼は、目的地――真辺警視と貴船長官の待ち受ける司令室の扉を叩いた。



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