それでも僕は生き続ける
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「また拾い子か、暁」
艶やかでありながら深い重みをも感じさせる低音の声は、甘さと爽やかさを同居させている面にへらへら笑いを浮かべる青年を糾弾しているわけではなく、ただ呆れを多分に含んでいた。
声の主――傭兵ギルド「セイバー」の長、バレルは構成員、すなわち己の部下の一人、暁シドウからその足元にピッタリ寄り添う少女に視線を向けかえる。
痩せ細った身体に光のない金色の瞳。時折見上げてくる眼に感情らしいものは伺えない。
またしても何か訳ありそうな子を、いったい今度はどこから連れて来たのやら。あえて深くは追求せず、彼は別の言葉を紡いだ。
「拾ってきた以上、面倒はちゃんと見ろ」
「分かってますよ。最近俺のことを信用してないようなこと言いますねー」
「大概人に任せているから言っているんだ」
「それなら人員を増やしてくれても……」
「良い人材がなかなか見当たらないんだ」
正直、人手不足が深刻であることは分かっている。しかしロクな人材が見当たらないのだからどうしようもない。志願者もいない。表向きは零細ギルドであるから、それは仕方ないかもしれないが。
そこに数少ないメンバーが次々と子供を連れてくるのである。それも特殊な事情を抱えている存在ばかりだ。慈善活動だからそれにはとやかく言わないが、同時経営している孤児院の負担が増すことも考えてほしいものである。
「あ、そうそう、俺この子の呼び名考えたんです。どうも名前がないみたいだったんで」
「そうか」
これもまたよくあることだった。元々自身がそうであったからなのか、彼は名前というものをことさら大事にしている節がある。だからきっと、孤児たちを拾い上げ名を与え、そして生きていく術を教えるのだろう。
「この子は今日から星河スバル。良い名前でしょう?」
「ああ、そうだな」
「でしょう?――ほら、スバル。この人は俺の上司のバレル。挨拶してみて」
促された少女はしかし、何も言わずにただ何処か遠くを眺めているだけだった。
とはいえ、これは予測していたことだ。バレルもシドウも特段咎めることもなく、代わりに軽い溜息をつく。
「先は長そうだなぁ……」
「それをどうにかするのが、保護した俺達の役目だろう」
「ええ、分かってますよ」
行こうか、スバル。そうシドウが告げると、彼女はようやく反応めいたものを見せた。
こくりと頷くと、歩き出した青年の後ろをちょこちょこと着いて行く。まるで刷り込みを施された雛鳥のようだ。
(いや、もしかすると……)
本当に、そうなのかもしれない――そんな考えが浮かび上がる。
(また、調査が必要になるか)
外れていれば良いのだが、当たれば当たればで何かしらの進展があるのだから空しいものがある。
「とはいえ、生きていたいと願う者は大勢いる」
あの子もその一員であることを期待しよう。そもそもシドウが見つけた子だ、そうであるに十中八九違いないが。
バレルはインク壺に浸していた羽ペンを取り上げると、止まっていた書類の続きを果たさんとそれを走らせ始めた。
13/06/11
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大体人員を増やしているのはシドウ。バレルはまとめ役。
スバルを拾った後の話。裏組織についてはまた今度。