強くなりたくて力を欲する
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昔々、この世界には人間と妖魔が仲良く暮らしておりました。

しかし、『宵闇の狭間』と呼ばれる別の世界から、魔物という悪い生き物がこの世界にやって来ました。

魔物達はこの世界を自分達のものにしようとしました。色んな場所で暴れ回ったり、人間を捕まえたりしたのです。

魔物達が悪いことをすることに困った人間はみんなで集まり、魔物達と戦うことにしました。彼等を元の世界に戻すことで、世界の平和を手に入れようとしたのです。

戦いは長く、激しいものでした。魔物達は人間よりも、はるかに強い生き物だったからです。人間は妖魔と協力して戦っていましたが、それでも彼等にはまだ勝てませんでした。

そんな中、一人の女性が立ち上がります。彼女は青色の竜と緑色の鳥と一緒に魔物達と戦い、ついには彼等を元の世界に帰すことに成功しました。

綺麗な亜麻色の瞳を持っていたその女性は、人々から『亜麻色の瞳の乙女』と呼ばれるようになりました。彼女は人々の中心となり、荒れ果てたこの世界を直していきました。

最後に彼女は『碧翠の賢者』と呼ばれた男性と結婚し、生まれた子供と一緒に一つの国を作りました。そして人々を導いて幸せに暮らしたそうです。

めでたし、めでたし。



「……」

この国に暮らす者なら、誰だって知っているお伽話。砂漠に引きこもっていた一族の中でもきっちり伝えられている程なのだから、余程妖魔達にも気に入られていたのだろう。

だが自分はこの話が、あまり好きではない。と言うより、どうしてこうも好かれているのか分からない。

(追い返した後の魔物はどうしたんだっての)

全て封じたのなら、今自分が魔物を倒す必要は無い。いや魔物退治自体は思いっ切り暴れ回れるので大好きなのだが。しかしよく分からない。

そんなこんなで考えるも、魔物を目の前にすれば思考は霧散。飛び込んできたスライムを鋭く磨いだ爪で切り裂き、己に殴り掛かるゾンビの腹を食いちぎる。飛び散る屍肉と鼻を突き刺す腐臭。

戦場の跡地なんてものは、何処だってこうだ。打ち捨てられた屍体はいつの間にか、かりそめの生を得て何処へ行くともなく徘徊し、血に汚れた大地からは形の曖昧な固形とも液体とも付かぬ奇妙な軟体生物が這い出してくる。

本来なら世にあってはならない光景なのだろう。それは魔物の世界、「宵闇の狭間」とこの世界の境目が曖昧になっていることを強く示しているのだから。

だが、これはこれで腕慣らしになるから、戦う者としては調度良い。そう、

(あいつを、あいつらを倒す為にはな……!)

一族の敵。一族を喰らって力とも呼びたく無い、悍ましい力を手に入れた「あいつら」。

悔しいが、今のままではこちらの力が圧倒的に足りない。もっと強くならなければ、倒せない。敵を、打てない。

「こんな奴ら相手じゃ、駄目だな」

弱すぎる。こんなんじゃ強くなれない。

更に障気の濃い場所ならば、あるいは今よりも強い奴らも現れるに違いない。

未だ動き出そうとする肉を踏み潰し、粗方倒したと判断。明日は違う場所に行くか−−そう決めて、

「!」

気配。振り返る。血脂と時の流れですっかり錆び付いた両刃剣を振り上げる、砕けた鎧を纏った、人間の姿形をした骨。スケルトン。

何で気付かなかったんだ!?内心で叫ぶ。避けるために後退ろうとした。だが。

(っ、足が動かねぇ!?)

障気がそうさせるのか、単純に疲労が溜まりすぎたのか。四足が全く思うようにならない。このままでは、間違いなく斬られる、思考がそう結論を弾き出した時。

耳が捉える。力強い羽ばたきの音。

「っだりゃぁあ!」

甲高い雄叫びは、戦場に似つかわしい殺気と気迫が込められて。

瞬間、大きな影が戦場を駆け。

骨の戦士が瞬く間に崩れ落ちる。幾つもの生命の業を吸い取ったであろう剣が、生命の雫で肥えた大地に転がった。

お陀仏の危機をかろうじて救われたウォーロックは、命の恩人の姿を認めると一つ、吠える。危機の淵から助けられたのだ、一応感謝はしておきたい。

応えるように地に舞い降りた翼竜の背には、よく見慣れた少女が一人。今しがた骨の騎士を砕いた剣を鞘に納めた彼女は破顔する。

「大丈夫、ウォーロック」

「てめぇのおかげでな」

「へへっ」

「にしても、何で俺が此処にいるって分かったんだ?」

当然浮かび上がった疑問をぶつける。と、熱斗は首を傾げ、目を右に左に逸らしながら答えた。

「えーっと、……たまたま?」

脱力。と同時に、こいつらしいとも思う。炎山やライカならこちらの行動を観察、傾向を割り出し更に分析して居場所を特定していたのだろうが、彼女なら適当に居そうな場所の虱潰しをして探すだろう。どころか、そもそも探していなかったというのも有り得る。

取り敢えず、見つけ出されたのは有り難い。あのままでは殺されていたかもしれない。奴らに復讐も出来ないまま−−

「取り敢えず、ギルドに帰ろうぜ。疲れてるんだろ?」

「よく分かんな」

「此処来るまでにたっくさん魔物の死体があったから。それと、」

「それと?」

「普段のお前ならあんな攻撃、避けられない訳無いしさ」

「……ふーん。分かってんじゃねえか」

人の姿に戻る。途端、足がふらついた。どうも限界を超えていたようだ。流石に引き際を心得無ければならないかもしれない。またこんな事態になったら面倒くさい。

素直に熱斗に引きずられ、ロックマンの背に跨がる。

『無茶するね、君も』

「うっせえ」

『あんまりがむしゃら過ぎて心配しちゃうよ』

「勝手にしてろ」

飼い主、いや騎手の熱斗は見ていて清々しいぐらい真っ直ぐかつ天真爛漫なのに、ペット、じゃない、騎竜のロックマンは何故こういちいち勘に障ることを言うのか。本当はこいつ魔物なんじゃないか?とまず有り得ない邪推をしてしまう。

主もまた背に飛び乗ったことを確認し、ふわりと浮かび上がった彼はけたたましく咆哮。かつての戦場に轟いたそれは、未だうごめく魔物達の牽制となり、スライムが自身の身体の一部を打ち出そうとする動きを止めた。

『さ、行こう』

「ああ」「おう」

蒼の飛竜は力強く羽ばたくと、灰黒の雲海を突き抜ける。

残された魔物達はお伽話のように人間を襲いに向かうこともなく、ただ生誕の地をはいずり回っていた。



2012/12/17
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ロックマンシリーズ25周年おめでとう、というお話じゃないなこれ……。
本当はもっとウォーロックと熱斗との絡みを書きたかったんですが字数がぐぬぬのためこんな感じで。お伽話って難しい
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