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一週間後。

「うへー……。相変わらずシャーロは寒いなぁ……」

「特に冷え込む時期だ。凍傷に気をつけるんだな、光」

「分かってるよ!」

何時になく厚着の熱斗と炎山は、空港の外で、相手方が手配している筈の迎えを待っていた。

何時も通りのリュックを背負った熱斗とは違い、炎山は少し大きめのスーツケースを持っていた。意図は分からない。聞けば「必要なモノ」が入っているそうだ。

「そういえばさ、スヴェート家って何処に有るんだ?」

「シャーロ首都より、少し西に外れた場所だ。当主婦人が人嫌いだったのを考慮したらしい」

「へえ……」

最も、真辺の調査結果によれば、当主婦人は既に亡くなってしまっているようだが。

(街ん中の方が便利そうなのになあ)

それ以上に、亡き妻への愛情が大事なんだろうか。

ぼんやり考えている内に、迎えがやって来た。黒塗りのリムジン。スノータイヤ。

「お待たせ致しました。恐縮ですが、招待状とPETの提示をお願い致します」

「これで良いんだろう?」

リムジンの運転席から降りるなり、そう告げた初老の男性に対し、一目見るだけで高価そうだ、と分かる封筒と、己のPETを炎山は差し出す。慌てて、熱斗もそれに続いた(当然、招待状は持っていないのでPETだけを)。

「……はい、確認致しました。伊集院様とお連れの光様ですね。では、こちらにどうぞ」

手慣れた手つきで、リムジンの扉が開かれる。どうやら別々に迎えているらしく、他の招待客は乗ってはいなかった。

「な、炎山」

「何だ」

「ホントに全部分かんのかな?スヴェート家にさえ行けば、どうとでもなるって感じになってるけどさ……」

「……正直なところ、そこまでは言い切れない。だが、大部分は分かる筈、だ……」

『実際、殆どがスヴェート家に関わるモノだしね。無駄骨にはならないと思うよ』

『同感だ』

PETの中で、ロックマンとブルースが頷き合う。サーチマンは黙ったまま、前をぼんやり見詰めていた。

「そういえば、熱斗」

「何?」

話は変わるんだが、と前置きした炎山の、普段は意思の強さで宝石のように煌めく青玉の瞳が、真夏の太陽の如くぎらついていた。

「お前、社交界用の衣装なんて持ってる訳無いよな?」

「何だよその決め付け!……持って無いけどさあ」

着替えは普段着しか持って来ていない。パーティーの為の服なんてママしか持ってないし。つか何で今そんな、……

思い出す。少し大きなスーツケース。「必要なモノ」。そして、伊集院炎山という人物に備わっている、性質という名の欠点。

「よし。存分に出来るな」

「しなくて良い!!このまんま出る!」

「それはさせられん。無理を言ってお前を連れて来た俺と、俺が代表として出席することを許したIPC、パーティーを開催したスヴェート家、全てに迷惑が掛かる。……こういうモノは、案外体面が関わってくるんだ」

「とか言いながら、本音は俺を着せ替えることだけだろ!?」

「まあ、そうだな」

明らかに本気。嘘じゃない、だが嘘だと言って欲しかった。

炎山は何故だか知らないが、気に入った女性を自分の好きなように着せ替えることが趣味なのである。いや、最早性質と言って良い。

今まではずっと逃れられていたのだが、今回は。

『熱斗君、やらせた方が良いよ。どうせ今の服じゃ、パーティー出席なんて無理だよ』

『招待状があるから門前払いをくらうことは無いだろうが……、白い目で見られるに違いないな』

『……』

「……分かったよ!着れば良いんだろ」

「よく言った」

ニッコリと炎山が笑う。滅多に見れない、というか今初めて見た。……これでシチュエーションがこんなんじゃなければなあ。

観念した熱斗は溜め息を一つつき、背もたれに深くもたれ掛かる。柔らかいシートに沈み込む。

(スヴェート家、かあ)

何があるんだろうか、炎山が招待され、かつ有名な宝石を持っているような名家に。

(にしても、ライカ何処行ったんだろ?)

わざわざサーチマンを置いていってまで行くような場所があるんだろうか。しかも何も言わないで、処分するかのような方法で彼を黙らせて、

(……でも、サーチマンならきっと、ライカが命令すれば黙りっぱなしぐらいするだろうし……それに、凍り付けってことは)

……黙らせるだけでなく、行動を見えないようにして?

(きっと、知られたくないんだ)

そんな時の彼女はいつも、酷く重要なことをしていないか?

(もしかして)

ライカはとっくの昔に−−もしかしたらメモを発見した時点で−−事件が何故起きたのか、真犯人が誰で、何を目的にしているのか、分かっていたのかもしれない。それで、自分一人で全部片付けようとしたんじゃ?

だが、それならサーチマンを置いて行くのが分からない。彼の解析能力は謎を解くのにも使える筈だし、そもそも彼に危機が迫っているとかでも無い限り、置いて行くこと自体−−

そこまで考えて、気付いた。

(……まさか)

真犯人の狙いは、宝石でも乙女でも名家でもなく。

(……サーチマン?)



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