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降り積もった白雪に、足を降ろす。固い。

(ほんの二、三日ぶりなだけだというのに……随分、久々の感覚がするな)

それはきっと、この地を離れる前と、心境が変わってしまっているから、なのだろう。

つい先程、空っぽにした(しなければならなかった)PETをコートのポケットにそっと直して、そして、待ち受ける人物に向き合う準備−−深呼吸を一回。

「……よし」

行かなければ。

後ろを振り向きたくなる気持ちを抑えて、一歩ずつ前に踏み出す。

意図的に目を逸らしていた現実に、身を重ねる為に。



サーチマンの件以降、二日は平穏無事に過ぎた。

サーチマンは炎山のPETの中で、どこと無くふさぎ込んだ顔をしながら、ブルースの仕事を手伝っていた。どうやら、何かをしている方が気が紛れるらしい。

熱斗と炎山は既に泊まり込みから解放されていた。犯人グループが自分達の人数や目的を洗いざらい吐いたからである。最早彼女達が狙われることは無い。

そんな折。

「招待状?」

「ああ。スヴェート家から、次期当主の誕生日記念パーティーに参加しないか、と」

『スヴェート家』

炎山は世界に名を響かせる大企業、IPCの御曹司であり副社長なのだから、名家主催のパーティーに招待されることも特に珍しくは無いのだろう。

問題は主催家である。

『スヴェート家って、今危ないんじゃ……』

「あくまでも危険なのは、いるのかどうかもハッキリしていないお嬢様であって、スヴェート家そのものじゃない。頭の片隅に留めて置くだけで十分だ」

『後、『輝ける二対の瞳』も、そこまで気にする必要は無い』

「というと?」

「パーティーにはもう一つ目的があって、その内容は『輝ける二対の瞳』をオークション形式で売り払うことらしい。つまり、スヴェート家には『輝ける二対の瞳』に対する執着心がそれ程無いんだ」

だからといって、危険が無い訳では無い。

熱斗がそう言おうとしたのが分かったのか、これまで節目がちだったサーチマンが漸く、口を開いた。

『……そもそも、今回の件は、俺達を襲った犯人グループとは別に、黒幕がいる。そう聞いただろう、光』

「あ、ああ」

犯人グループの頭目曰く。

彼等は元々、依頼された裏家業をこなすことを生業とするグループだった。ある日、「ある少女」を連れて来て欲しい。そう依頼をされ、報酬に『輝ける二対の瞳』を提示された。

彼等も『輝ける二対の瞳』の価値と、その所在を知っていた。故に始めは、断ろうとしたのだと言う。シャーロ内ではかなり力を持つスヴェート家を敵に回すだけの度胸は、彼等には無かったのだろう。

所が、依頼主−−サーチマンが言うところの『黒幕』−−は、こう言った。

「確実に手に入れる当てがある。−−さあ、考えろ。お前達は女一人を連れて来るだけで、価値のある宝石が手に入るんだぞ?」

と。

それで彼等は依頼を引き受け、少女の現在の居場所候補を聞き、全ての場を回り……

最終的にネットセイバー達を、襲撃した。

「でもさ、依頼主は誰なのか、とか俺達の内の誰がターゲットだったのか、とかは言おうとしてないんだろ?」

「だからこそ、だ。いない筈の『光を抱く高貴なる乙女』は誰なのか、黒幕は何を目的として彼女を手中に納めようとしているのか、そして、ライカはサーチマンを俺達に託して、何処に消えたのか……このパーティーに参加すれば、分かる筈なんだ」

最も。

(『光を抱く高貴なる乙女』は十中八九、アイツなんだろうが……)

この様子だと、熱斗は気付いてはいないようだ。鋭い時はとことん鋭いが、鈍感な時はひたすら鈍感な彼女のことだ、言えば余計に混乱するに違いない。

だから炎山は、別の台詞を言った。

「光。お前もパーティーに来い」

「は!?」

「お前は本来、参加出来る存在じゃないが、俺が何とかする。とにかく、来い」

「何で俺が」

「お前だって、知りたいだろう、真相を」

「それは……そう、だけど」

「なら、決定だな。パーティーは一週間後、準備には十分だ」

あれよあれよという間に決定した炎山は遠い遠い、シャーロの地へと思いを馳せる。

(スヴェート家、か)

事件の渦中に有りながら、不気味な程手が読めない。

(黒幕よりも、こっちの方が厄介そうだな……)

何の音沙汰も無い、己の戦友も含めて。



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