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ネットセイバー達を襲った男達はネット警察によって尽く逮捕され、熱斗が発見、ロックマンがウィルスを駆除した装置は科学省で解析されることとなった。

通常の事件ならばこの時点で三人はお役御免、なのだが、直接の被害者とあってはそうもいかない。

「ネットセイバーは今や、通常の電脳世界上だけでなく、現実世界に出現したウィルスやネットナビに対抗する組織……。彼等もそれを分かっていて仕掛けてきたのでしょうね」

実体化したウィルスに一番効果的なのは、CFしたネットセイバーをぶつけることだ。つまり、必然的に熱斗、炎山、ライカの誰かを差し向けることになる。

今回は三人全員がたまたま揃っていて、たまたま出撃出来たから事なきを得たものの。

「俺は、この件に関しては俺達全員か、もしくは誰かが狙われたものだと睨んでいます」

「そうね。単純に事件を起こす為ならば、貴方達を事件とは全く関係無い場所におびき出し、別の場所で本命を起こせば良い。けれど彼等はおびき出した先でそのまま、仕掛けてきた」

『現実世界での事件で生身の人間が襲い掛かってきても、俺達ネットナビにはほとんど対処出来ない』

「それも計算に含めていたんでしょうね。最も、炎山君とライカ君が生身で戦う術を身につけていた、とは考えていなかったみたいだけど」

それでも分からないことがある。

動機。

「何で俺達が襲われなきゃいけなかったんだ?」

「それなんだけど、熱斗君。ライカ君が押収したメモに−−」

コンコン、と小気味よいノック音が聞こえたのはその時だった。

真辺が入室の許可を出す。入ってきたのは、刑事の岬。

「どうしたの、岬刑事」

「熱斗君。それが……」

困惑した表情の彼曰く。

「ライカ君に会いたいっていう人達が来てるんだ。それも、四人も」

「俺に、ですか?」

「ああ。今すぐに、ということだった」

「分かりました。−−退席しても構いませんか、真辺警視」

「ええ」

「では、私はこれで…」

普通の客ならともかく、急ぎの客となればいつまでも此処にいるわけにはいかない。

真辺としても、後のことは熱斗と炎山に聞けば良いと思ったのだろう。ライカの退席をあっさり認めた。

「失礼します」

扉から出て行ったライカの表情は固かった。呼び出し人が誰か、察しが着いていたのかもしれない。軍関係者か、或いは……

……或いは?

(俺、炎山の家は知ってても、ライカのことは全然知らないや)

強いて言うなら、小さな頃は鉱山で遊んでいて、彼女の上官であるマレンコフが同時に彼女の叔父である、ということだけだ。

ただ、あの表情から見るに、自分にとって余り歓迎出来ないらしい相手なのだろう。

「……話を戻すけど」

「あ、はい」

「メモにはこう書かれていたわ。『光を抱く高貴なる乙女を手にしたモノに、輝ける二対の瞳を渡す』」

『光を抱く高貴なる乙女に、輝ける二対の瞳?』

まるで謎々のようだ。

3Dモニターの中で、ロックマンが首を傾げる。ブルースは黙って思案しているようだった。

「それと、もう一つ。犯人達はどうやら、シャーロからやって来たようなの」

「シャーロから、ですか……」

『メモもシャーロ語で書かれていたようです、炎山様』

ならば今回の犯行のそもそもの始まりは、シャーロにあるのだろうか。

シャーロから来た物騒な犯人達。シャーロ語で書かれたメモ。光を抱く高貴なる乙女。輝ける二対の瞳。

「これらを合わせると、一つの仮説が導けるわ。−−熱斗君、炎山君。スヴェート家、という家は知っているかしら?」

「スヴェート家ぇ?」

唐突に尋ねられた。が、知らないものは知らない。ていうかスヴェートって言いにくいし!

思いながら炎山の表情をそっと伺う。どうやらピンと来たのか、納得したような面持ちだった。

「シャーロの名家ですね。確か、石油と天然ガスの事業でいち早く成功を収めた……」

「ええ。それに加えて、数年前、この家が通称『輝ける二対の瞳』とされる四つの宝石を美術館から買い取った、という記録が確認出来たの」

「……成る程」

「えーっと」

すすいっ、と手を挙げる。混乱した頭をとりあえず、落ち着けようとして。

「とにかく、そのスヴェート家が『輝ける二対の瞳』を持ってる、ってのは分かった。でも、それが『光を抱く高貴なる乙女』と何の関係が……」

『光。「スヴェート」というのはシャーロ語で、「光」を意味しているんだ』

「……あ、あー、そういうこと!?」

『熱斗君、ホントに分かってる?』

「いんや全然」

がくう。そんな音が聞こえた気がした。

ロックマンは苦笑してるし、炎山は頭抱えてるし、ブルースは呆然としてるし、真辺警視は溜め息ついてるし……

「……、あのな、光。抱くってのは物理的な意味じゃなくて、名前に「光」、つまりスヴェートを冠してるってことだ。要するに、今回狙われてるのは名家であるスヴェート家のお嬢様、っていうことだよ」

「へー……って、それってヤバいじゃん!」

そのスヴェート家のお嬢様?を早く見付けて、守ってやんないと。俺達みたいに襲われちゃうかもしれない。

早くそれを言おうとして、真辺を見ると、彼女は何故か難しい顔をしていた。

「真辺警視?」

「……、おかしな話なのよ、これは」

『おかしな、って……どういうことですか?』

メモの謎も解けた。狙いも分かった。なのに何故。

ロックマンの純粋な疑問に、真辺は正直に答えた。



「ここ十数年のスヴェート家に、女児が生まれたという記録は無い。主人の奥さんも既に亡くなっている。……『光を抱く高貴なる乙女』なんて、現実には存在していないから、よ」



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