-2-
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ある程度のスピードを出しているおかげで、現場には確実に近付く。しかし、違和感が強まるばかりだ。
「なあ、二人共。なんか、みんな普通じゃねえ?」
「ああ。誰も逃げ出そうとしていないな」
「慌てている様子も無い。……何事も起きていないかのようだが」
『ですが、反応は実際にあります』
現実との反応のズレ。
ライカのPETから3Dモニターが浮かび上がる。サーチマンがデンサンシティの地図を表示したのだ。
『現在の反応ポイントは……デンサン埠頭です』
「デンサン埠頭?」
『はい』
幾多のコンテナと倉庫が立ち並ぶ、海の物資保管庫。業者以外の人の出入りは決して多いとは言えない。故に犯罪取引の指定場所として扱われることがある。或いは、物資狙いの襲撃。
実際、半年前のアステロイド事件の際、この場所が中古自動車の密輸取引指定場所にされたことがあったのだ。また今回も、そんなことがあったら。
「丹羽、進路を変更しろ。デンサン埠頭へ向かえ」
「畏まりました、副社長」
丹羽は何も事情を聞かず、敬愛する副社長に答えるよう、ハンドルを回した。
デンサン埠頭−−
閑静なる倉庫地は、熱斗達が踏み込んでもなお、沈黙を守り続けている。
「ウィルスの姿は確認出来ないが……」
「確かに反応はあるのか?」
『ああ。……』
何か思い当たることがあるのか、それとも何かしらの可能性を思い付いたのか、サーチマンは黙り込んでしまった。
だがそれは一瞬で。彼の紅い瞳が驚愕に染まる。
一方。一人、彼等の後ろを歩きながら、埠頭全体の地図を表示した熱斗はふと、首を傾げる。
「なあ、ロックマン」
『何、熱斗君?』
「この反応……何か、おかしくないか?」
『おかしい、って……?』
「もしかしたら」
『この反応は、ダミーです。実際に実体化ウィルスが出現した訳ではありません』
「これってさ、嘘の反応…っていうか、いわゆる囮じゃないか?本当は、ウィルスなんて出現してないんだよ、きっと」
ほとんど同時に放たれた推測。それらは、ライカと炎山、二人の歩みを止めるには十分なモノだった。
「ダミー……ということは、罠か?」
ネットセイバーは立場上、裏世界の住人達には親の敵の如く扱われることが多い。罠を仕掛けてでも倒したい、と考えている奴らがいても何にもおかしくはない。
『僕達をおびき寄せる囮、だとしたら……。何処かに本命が潜んでる、ってことだよね?』
「恐らくは……っ!」
ふとコンテナの影に視線を向けたライカは、「それ」に気付いた。
「それ」は、眉根を寄せて炎山と話し合う熱斗の胸元近くを狙っていて……
「熱斗!」
「何だよ、ライカ。いきなり大声……って、え!?」
覆いかぶさる、自分よりも背の高い少女。
高く鳴り響く、風船の割れたような音。
直撃を受けて、吹き飛んだドラム缶。
「なっ…」
『銃撃!?』
一体何処から。
もんどり打って倒れた二人を見遣るも直ぐに、振り返る。引っ込んだ黒い銃身。−−人間が使用する、ハンドガン。
「本当の敵は生身の人間、か……」
『人間相手では、CFによる対抗は不可能です』
「分かっている。光、お前は何処かに身を隠せ。ハッキリ言って、邪魔だ」
「うー……」
炎山は嗜み以上の護身術を身につけているし、ライカは軍人として格闘技を習得している。対して熱斗はただの小学生、生身で戦う術は持ち合わせていない。
言い方はムカつくが、残念なことに事実。言い返すことはせず、熱斗は立ち上がると、直ぐ近くのコンテナの中に入り込んだ。ギギギギ、と扉の閉まる音。
同じく立ち上がったライカはコートの裾を手で払いながら、サーチマンに命令を下す。
「デンサン埠頭一帯の生体反応を探れ」
『了解。サーチします』
「終わったら、俺のPETにも検索結果を送ってくれ。一応、光にも」
『分かった』
「それから、ブルース。科学省に今までの事態を連絡。丹羽には何時でも撤退出来るよう、車の準備を整えておけ、と伝えてくれ」
『了解しました、炎山様』
PETの画面から、ブルースの姿が消える。確認もせずにホルダーに仕舞うと、炎山は一歩、踏み出した。
「−−やるか」
「−−ああ」
張り詰めた空気。二人の少女に恐怖や怯えは存在せず、寧ろ事態を楽しんでいるようだった。
−−−−−−−
← →