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資材搬入口への魔物襲撃より、三十分前。
(何で僕、此処にいるんだろ?)
指定された座席に腰掛けながら、スバルはぼんやりそんな事を考えていた。両隣りにはクラスメイト、白銀ルナと最小院キザマロ、ルナの右隣りには牛島ゴン太。
意識を取り戻した時には既に朝となっていて、とっくに起きていたらしい、何処と無く張り詰めた雰囲気のウォーロックを気にしながら、しかし自分も気分があまり良くなかったので、看病をしてくれていたらしいエックスに無理を言って、僅かな手荷物を持って外へ出た。それは覚えている、ハッキリしている。
ならばその後だ。そう、いつもの展望台へ向かおうとしてコダマ駅で降りて、そして委員長達に包囲されて、あれよあれよという間にデンサンタウンまで戻ってきて、現在地、響ミソラのコンサート会場まで連れて来られたのだ。
(炎山君には同情的な眼差し向けられたし、熱斗君は笑ってるし……)
正直、物凄く複雑な気分だ。今すぐ帰りたいような気がするし、このままミソラの歌を聞きたいような気もするし、熱斗達と合流したいような気もする。
結果流されるまま、「ミソラの歌を聞きたい」を選択した。のだが。
(何だか、ザワザワする…)
何か起きそうな、そんな雰囲気。
もしも何かあったら、熱斗達を頼る訳にはいかない。基本的に、セイバーと言うのは秘密裏にすべきことだ。現在あくまでも「一般人」として此処にいる自分は、守る側ではなく守られる側で在らねばならない。
それでもきっと、黙ってはいられないのだろうけれど。
(一応、クラスメイト、なんだし)
事件そのものの解決に携わることは出来なくとも、ルナ達をそれとなく守ることぐらいなら出来る、筈だ。
もちろん、一番良いことは、そんな事件が一切起きないことだが。
「−−ちょっとスバル君!聞いてるんですか!?」
「え?」
「おいおい、よりによって委員長の話を聞いてない、とはなあ?」
気付けばキザマロとゴン太が自分の顔を覗き込んでいた。恐る恐る右隣りを見ると、眦を釣り上げた少女の顔。
「ス〜バ〜ル〜く〜ん?」
「え、えーっと、その…」
ビーッ、ビーッ!
「あ、ほら!コンサートが始まりますよ、委員長!」
「あら、そうみたいね。−−ほら、星河君!貴女も早くペンライトの準備をしなさい!」
「う、うん」
炎山の視線を感じつつショップで買ったペンライトをウエストポーチから取り出す。タイミング良くなった開演の合図に感謝。
会場の明かりが次々と消える。代わりにステージを彩るハロゲンライトとスポットライト。
照らし出されるは一人の少女。静か過ぎる程静かなステージの上の支配者。己の歌で現代を揺り動かすアイドル。
響ミソラ。
『ハァーイ、皆さんこんにちはー!!響ミソラです!!』
マイクを通して再び聞いた、一日ぶりの声に懐かしさと安堵、そして−−
ゾワリと、背を撫でる悪寒。
(…まただ)
一体何が−−
「ねえ、ロック。ロック?」
歓声には掻き消されず、しかしクラスメイト達には聞こえない程度の声で、ロケットの中に仕込んだ精霊石の主を呼ぶ。
しかし返事は無い。何か思案しているようだ、らしくもなく。
「ちょっと、ロックってば」
『スバル』
何度目かの呼びかけに漸く応えた彼の声は、何時に無く逼迫していた。
「な、何?」
『今すぐに耳を塞げ!早く!』
「は−?」
何を突然、そう思ったのも束の間。
歓声が次々と消え失せる。物悲しいバラードの旋律が遠くなる。
(まさか、催眠−?)
どうしてミソラちゃんが、そんなこと。
ぼやけてくる視界。最後に映ったのはミソラが歌い続ける姿と、異常事態のただ中でセイバーとして動き出した熱斗、そしてどうにも様子がおかしいウォーロックの、三つだった。
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