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翌日、デンサンシティはデンサンタウン、コンサート会場。
資材搬入口では愛用のZセイバーを珍しく腰のベルトに差しているゼロと、自動式ショットガンとリボルバーアクション式マグナムを調節しているアクセルが、周辺の警備をしていた。
ステージ用のアンプやハロゲンライトが次々と搬入される中、アクセルがふと口を開く。
「今のとこは、何も無いみたいだね」
「そのようだが、油断はするな。不審者を侵入させるわけにはいかん。何者かが業者に化けて侵入してくる可能性もあるんだぞ」
「分かってるって」
ポーチから取り出した散弾を詰めるアクセルの表情はいつもの通り。緊張感があるのかどうかまでは分からない。
溜め息をつきながら、ゼロもまたZセイバーを引き抜き、刀身が最高の状態で具現するか確認する。−今のところは、問題無い。
(そろそろ、中の二人にも状況を聞くか。……光の様子も気にかかる)
会場前では炎山が、客席では熱斗がそれぞれ待機している。資材搬入口−外からでは中の様子までは分からない。それに、既に二時間は経っているのだ、熱斗が飽き始めていてもおかしくは無い。
彼女が暇だの飽きただの叫びながら適当に歩き回っている姿が容易に、かつ鮮やかに脳裏に描けてしまう。それだけで頭が痛い。思わずまた、溜め息をついてしまいそうだ。
幸い、まだ状況を聞いてはいないから、そんな情けないことにはなっていないとは思いたい。
考えながら、ゼロは耳に付けた小さなイヤリング型通信石を弾く。
「こちらゼロ。応答しろ、伊集院、光」
『何か用か』
『どしたんだ?』
直ぐさま返って来た声は二つ。僅かながらに雑音が混じっているが、恐らくは炎山の側だ。観客用ゲートには既に、ニケタを超える人が集まっている。一方で、まだ入場開始時間ではないから、舞台はともかく、客席はがらんどうのはずだ。
従って、通常の任務時よりはクリアな通信。聞き取り易い。
「一端、状況を確認したい」
『問題無い。客が少し煩いだけだ』
『こっちも特に異常無し!ついでに、ミソラの方も大丈夫そう。さっきまで元気そうにリハーサルしてたし』
「そうか。こちらも異常は無い。先程全ての資材を搬入したようだが、不審な点は見当たらない」
『となると、そちらからの侵入者はなさそうだな』
このまま、何事も無く終われば良いのだが。
そういう訳にもいかない。そんな予感。
『そろそろ開場時刻だ。光、気を抜くなよ』
『分かってるって』
能天気な声には、思っていたよりも緊張感が含まれていた。流石に気を引き締めているらしい。少し安心する。
プツリと切れた通信。裏方にいてすら分かるざわめきの音。
「もうすぐ始まるね」
「そのようだ。−最も、」
空を見上げる。僅かな暗雲が立ち込める蒼い空を飛び回る、鳥型の魔物−恐らくはロイホーク−が数体。
彼等は何度か、奇妙な雄叫びを上げると、空気を切り裂く鋭い高音と共に、こちらを目掛けて特攻を仕掛けてきた!
「穏やかには、終わらせてくれそうにないな」
「確かに。ホンット、厄介なお客様だね、ゼロ!」
親指で素早く撃鉄を上げ、幾度も幾度もトリガーを弾き、そうやって詰め終えたばかりの散弾を撃ち込む小さな戦友に同意の頷きを返しながら、弾幕を擦り抜けた魔物を一刀両断。
飛び散った羽が黒色の塵芥と化すのには数秒も掛からず。それも消え去るのは刹那の程。
「さあ、来い」
Zセイバーを眼前に構える。蒼い瞳は炯々と輝いて。
彼等は気付いていない。
先程の、外にいてすら分かる程のざわめきが、嘘のように静まり返っていることに。
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