シャングリラ
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ヒラヒラ、淡い桃色の花びらが舞う中、青年−ゼロは立っていた。その手には鞘に納まった刀。

「貴様がZセイバーを持っていないとは、珍しいな」

背後から掛かった声は男の如く低い女の声。いちいち男声を作る女は自分の知り合いでは一人しかいない。振り返る。そこには予想通り、男装した死神。

「何か用か、伊集院」

「…いいや。たまたま見掛けたんでな。それと、愛用の得物を持っていないのが気になったんだ」

「……たまには別の武器を使わなければ、腕が鈍る」

シャキン、鞘から刃が抜き放たれる。陽光を反射して輝く。その姿は美しい。武器に煩い彼のことだ、あれはきっと名刀であろう。

ゼロが得意としている武器はZセイバー−すなわち、ビームサーベルだけではない。刀、薙刀、双剣、鉄扇もまた彼が自在に操ることの出来る武器だ。更には体術もウォーロックに負けず劣らずの腕前で、セイバー内で一、二を争う接近戦の達人というだけはある。

そんな彼はZセイバーを愛用していて、少なくとも炎山は彼がそれ以外の武器を扱っている姿を見たことが無い。複数種の武器を自在に操れる、と言うのも他人から伝え聞いた話。任務が重ならないのも理由の一つだが、彼女がゼロのことを意図的に避けていることが最大の理由である。だから今彼が刀−自分の得物と同じ−を優美に振るう様は新鮮そのものだった。

「…それに、エックスが俺の剣舞を見たいと言っている。上目遣いで言われれば聞かない訳は無いだろう」

「…………………」

…思考回路はどうやら、遥か昔のままのようだが。

「そうだ、後で手合わせをしないか?」

「……別に、構わない」

死神業務も一段落したところだ。それに、ゼロとは久しく訓練をしていない。最後にしたのは、何時だったか−

こんな風に、桜が精一杯咲き誇る時だったか。

(…たまには)

良いのかもしれない。地獄とも楽園ともつかぬ地に縫い付けられた、いいや縫い付けた者同士、言葉要らずで語り合うことも。



(この世は地獄であり、楽園)



11/12/04
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春から初冬まで放置されていた話その一。
炎山はゼロが苦手というか何と言うか会いにくいとかそんな感じ
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