偽りはない、苦みはある
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自分の目的は奴らへの復讐であり、契約主の少女を守ることではない。そう思っていた。力を発揮するために利用していただけ、なのだと。
けれど今は違うのだろう。
「ウォーロック、何処へ行くつもりだ?」
低く何処か艶めいていて実は冷めた声が呼び止める。
振り向くと、そこに立っていたのはゼロだった。
「ちょっとな」
「それで俺を誤魔化せるとでも?」
「……」
更に底冷えする声に、これ以上濁すのは危険だと判断した。
「奴らと決着を着けるべきなのは俺だ。…、今のアイツを巻き込むべきじゃねえ」
そう、今のスバルは。友人に裏切られて相当に落ち込んでいる。同時に、他者に対する強烈な不信感が蘇ったようで、彼女を心配したミソラや熱斗、エックスにまで感情的な暴言を吐く有様だ。
そんな彼女を、自分の目的の為に連れて回すわけにはいかない。今彼女に必要なものは、静かな時間。
「で、置いて行くことにしたのか」
「そうだ」
「ならば、」
一端切られた言葉。
ゼロの眼光鋭い、蒼穹の瞳が正反対の瞳を射抜く。
「お前は何故、そんな迷った顔をしてるんだ」
虚を正確に突いた一言が、ウォーロックの表情を強張らせるには、時間はそれ程掛からなかった。
そんな様には構わずに、ゼロは畳み掛ける。
「今の星川には確かに、時間が必要だ。そして、側にいるべき者も必要だ。……彼女を一人にしてはいけない、そう感じているから迷っているんじゃないのか?」
己の復讐よりも、大事な人物を選ぶべきではないのか、と。
(……そんな事は、)
「分かってんだよ…!」
だから置いてきたんだ。そう続けられた激情の言葉を聞いて、ゼロは何度か目をしばたたかせた。
「狙われてんのは俺だけだ。星座精霊をぶちのめしたいのも俺だけだ。それに、アイツの側にいてやれる奴は他にもいる。だったらアイツのとこにいない方が、ずっと良いだろうが!!」
何もかもが、自身にのみ関するというのなら、尚更に。
衝動のままに吐かれた思考を、青年剣士はあくまでも冷静に分析する。その間数秒。
上げられた蒼の瞳には、一種の敬意。
「そうか。……迷ってても、ちゃんと考えて行動しているのならば、良いさ」
それだけ言って、セイバー本部へと歩み去るゼロの背を、ウォーロックは無言で見詰め、
「……柄にもねえな、俺」
ただ、一人ごちた。
11/12/03
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ゼロは大人。心情の変化が分かる人。だと思い。
ウォーロックにだって迷う時はあるんだ。そして迷っても先に進むのさ