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ガチャリ、ノブを回すと勢い良く扉を開く。開ける屋上には言い争いをしている男とミソラ、そして眉を珍しくハの字にして、困惑している熱斗と無言で男を睨んでいるアクセル。そういえば彼女と彼が一番最初の護衛に駆り出されたんだっけな、状況にそぐわぬことをぼんやり考える。
「何があったんだ、光」
「あ、炎山にスバル。…それがさあ」
ミソラが屋上に出たいと言ったから来た。話している間にあの男−ミソラのマネージャー、金田というらしい−が扉の外で見張っていたアクセルを押し退けて突如現れ、ミソラを無理矢理連れ出そうとした。それに対して彼女は抵抗、そして今に至る、と。
「マネージャーとは不仲、か…」
「君が調べ上げた通りだよ。…ここまでとは思って無かったけどね…」
「調べた…」
公園に行く前、炎山がブルースに渡した資料の束を思い出す。…あれは、ミソラちゃん関係の?
セイバー達がヒソヒソ会話している内に、事態はドンドン進んで行く。
「さあ、さっさと戻るぞ、ミソラ!!」
「イヤ!私はもう、お金儲けの為なんかに歌いたく無いの!!」
それは、十一かそこらの少女が上げるには余りに悲痛な叫びだった。
「私の歌は私とママのモノよ。天国のママを喜ばせる為のモノ…。それなのに、これ以上お金の為なんかに歌えない…!」
「……ミソラちゃん…」
魂切る叫び。過去に置き去りにした苦痛が呼び起こされた、そんな気がした。
彼女の想いなど関係無い、そう言い放つかの如く、金田はわざとらしく足音を立てながら震えるミソラに近付いていく。
「そんなこと言ってないで、帰るぞミソラ!お前の歌を待ってるファンもいるんだ!」
「イヤよ!……っ、離して…!」
彼女は必死で抵抗する。が、所詮は子供の力、大の大人に叶う筈も無い。
「ねえ、あのオッサン何かムカつくんだけど」
「俺も同感。みんな、ミソラを助け……あれ?」
流石に見るに耐えかねてきた熱斗が勇ましく声を張り上げた時には既に、一人が行動を起こしていた。
−スバル。
「ミ、ミソラちゃんを離せっ!」
かじりつくように金田の太い腕を掴んだ彼女の表情は必死そのもので。それは熱斗達が今まで一度足りとて見たことの無いものだったから、誰も手出しが出来なかった。
スバルの長い焦げ茶の髪が夜風に煽られ、舞い上がる。直後、金田の空いていた片腕が彼女の髪を強く握り締めた。
「邪魔だ!」
髪を思い切り引っ張られる。離れた手、背に強く走った衝撃。−床に叩き付けられた。
ミソラの表情が酷く歪む。
「スバル君…」
「ほら、行くぞミソラ!」
「……っ、」
伏したスバルに痛ましげな視線を向けたミソラは何を考えたのか、フツリと抵抗を止める。
『スバルっ、スバル!!』
「ミ……ソラ、ちゃ…」
ウォーロックの名を呼ぶ声も遠く聞こえる。
頭を強く打ったのか、視界が霞んでいく。熱斗やアクセルが何か叫んでいる、ような気がした。
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