絶望に慣れてしまう前に
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「弾けろ!」
自らの周囲を爆破する。吹き飛んでいくイミテーション。
また別のイミテーションが突撃してくる。息をつく間もなく、再びガンブレードを振るう。刃が敵の脆い装甲を引き裂こうとしたその瞬間、トリガーを引いた。
爆発した火薬の振動が刀身に伝わる。小刻みに震える刃は"いにしえの忌子"を易々と引き裂いた。
(まだいるのか)
随分と数の多い。舌打ちしながら左手に魔力を溜める。
「凍れっ」
迫ってきた"模倣の義士"目掛けて氷塊を打つ。そのままガンブレードを右に左に、舞うように閃かせた。奇妙な断末魔を上げながら、二、三体のイミテーションが消滅する。
一撃で倒れるような、脆弱なイミテーション達。一体なら何てことは無い。が、数十体が纏めて襲ってきたとあっては話が別だ。先程まで行動を共にしていたバッツ、ジタンとはあっさり引き離された。
目的はこちらの弱体化、なのだろう。この状況でエキスパートやアルティメットタイプが送られて来たらマズイ。
(…、使うしか無いのか?)
魔女の力は強大だ。雑魚なら簡単に全滅させられる。しかし、それだけの力を使えば自我を蝕まれる。破壊に愉悦を覚える獣に成り下がる。それは避けたい。
考えながら得物を一閃。"虚構の英雄"の胴を真っ二つに切り裂いた。消える側から飛び込んできた"うたかたの幻想"の拳を身を捻ってかわす。流れるまま、ガンブレードを突き出した。胸を貫かれた"うたかたの幻想"が塵も残さずに消える。
その間にも、別のイミテーションの攻撃が彼女に降り懸かる。
群れの隙間を縫うように飛んできた光弾が腹を掠る。更に、背後から突き出された槍が頬に赤いラインを描いた。
「くっ…」
このままではじり貧だ。
周囲を爆撃して、迫っていたイミテーション達を弾き飛ばす。更に簡易結界を張り巡らす。−攻撃魔法を唱えるだけの時間を確保した。
彼女の背から純白の翼が伸びる。時折儚く揺らめくそれは魔力で具現化されたもの。彼女の、魔女としての象徴。
結界を取り巻く人形達を、感情の無い青灰の瞳がゆくりと見回す。形の整った唇から漏れるは究極魔法アルテマの詠唱。
(……正気でいられるか?)
分からない。
パチリ。一瞬の余計な思考が魔力の循環を阻害する。形成された"場"が乱れる。
(マズイっ)
慌てて"場"を立て直した。が、その間にも結界は揺らぐ。−突破される。
(くそっ)
多少の傷は覚悟して詠唱を中断する。ガンブレードを再び具現化して構えた。スコールの闘気と膨れ上がった魔力に反応した刀身が蒼く輝く。
ピシリ。結界にヒビが走った。
(何処まで保つか…)
せめて、別の場所で戦っている筈の、バッツとジタンの負担にはなりたくない。だから、少しでも数を減らさねば−
パキン。結界が儚く砕ける。なだれ込む"偽りの勇者"を切り捨てようとした、その瞬間。
「当たれぇ〜!」
「避けてみな!」
「−っ!?」
光の刃が、エネルギー弾がイミテーション達を次々と葬り去っていった。
あいつら、どうして−!?思いながら、寄り付く敵を切り払う。飛び散る破片は無視して、声を張り上げた。
「バッツ、ジタン!」
「大丈夫か、スコール!?」
「来るの遅くなって悪かったな!今コイツら倒すから!スコールも頑張ってくれ!」
「……」
元より、そのつもりだ。
蒼く輝く刃を閃かせる。振り下ろされていた"たまゆらの雷光"の剣を受け止め、そのまま押し返した。−魔女の力をある程度解放している今なら、武器を用いた攻撃の大半には打ち勝てる。
「−来るのなら、来い」
振り返りながら呟く。背後−先程までの正面−はもう、問題無い。
イミテーションの群れを睥睨しながら、スコールはガンブレードを水平に構えた。その瞳に、先程までの一種の諦めはもう、存在してはいなかった。
(で、何で助けた)
(前も言ったろ?誰かを助けるのに理由がいるのかい、って)
(……)
(スコール、顔真っ赤ー)
(うるさいっ)
11/06/10
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当サイトに魔女スコールが定着しつつある今日この頃。
589が好きすぎる。例えスコールが救われない存在でもバッツとジタンなら救ってくれると信じてる。