僅かばかりの純情
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「バンブーランス!」

高い青年の声が林に響き渡る。瞬間、勢いよく伸びた竹槍が、つるはしを振り上げたメットールを突き刺した。

魔力の粒に昇華したそれを見送る間も無く、地中から飛び出したモモグランが手にしたシャベルで殴り掛かってくる。ひらり、その直接的な攻撃をかわしつつ、手斧で胴を薙ぎ払った。消滅は確認せず、次の魔物に魔術を仕掛ける。

「こういう時は…ウッドライン!」

簡単に練り上げられた魔力とそれを帯びた声に呼応して、地面から次々と木の杭が飛び出す。打ち上げられたラビリーやモジャヘイが大量に霧散していく。

こちら側はだいたい倒した。ざっと周囲を見回してそう直感したディンゴはくるり、振り返る。トマホークマンがイーグルを呼び出しながら、やはり魔物の群れを相手どっていた。

「そっち、終わりそうか?」

「もう少し、ってとこだな。そういうディンゴはどうなんだ?」

「だいたい」

のんびり会話する間にも、トマホークマンの斧は何体ものキルミーを切り裂いていた。

「だいたいって…全部じゃないのかよ」

「何処から湧いてるのかわかんねえんだって……おわっと!」

背後から飛んできた蜘蛛の巣を慌てて回避。しまったばかりの手斧を取り出し、狙いを定める。ピタリ、狙いが合う。そのまま、潜んでいたらしき木に戻ろうとするスパイダラに思い切り、手斧を投げ付けた!

ウォン、空気を切り裂いて唸る手斧の一撃はしかし、

スカッ!

「はぁっ!?」

予想外の速さで糸を伸ばし、地に下りることで攻撃をかわしたスパイダラがにやりと笑った、ような気がした。

くるくる回る手斧が戻ってくるが先か、スパイダラのダミースパイダ発射が先か−

(絶対相手の方が早いだろ!?)

地属性の攻撃の特徴は、攻撃回数の多さと攻撃発生の速さ、である。

わらわら飛び散ったダミースパイダ達が一斉に向かってくる。ヤバイ。子供に構わず親を倒せばもろとも消滅するのは分かっているが、武器は無いし、術を唱える余裕は無い。トマホークマンはまだ戦っているから助けは求められない。

「やばっ…」

主の窮地に気付いたらしいトマホークマンが振り返る。指示を受けたイーグルが親蜘蛛を倒そうと、矢のごときスピードで飛び込んできた。が、間に合うかどうか−

「ディンゴ!」

トマホークマンのほとんど悲鳴に近い声が上がるのと、大気が凍り付く、小気味よい音が鳴ったのはほぼ同時。

瞬間冷凍されたスパイダラに数本の投げナイフが突き刺さる。緑濃色の魔力の粒子が、もがくことも出来ない魔物の腹から勢い良く吹き出した。

(あの投げナイフ−)

戻ってきた手斧を掴みながら、地面に落ちた投げナイフを拾う。それから周囲を見回した。子蜘蛛は全て消滅している。魔物を全て片付けたトマホークマンが走り寄ってくる。

「大丈夫か、ディンゴ?」

「ああ。こいつが飛んできてさ」

言いながら、投げナイフを渡す。変わった表情。トマホークマンも、この武器の持ち主に気付いたようだ。

果たして、草葉の擦れる音と共に、持ち主が現れる。

「ライカ」

「………」

無言で投げナイフの返還を要求。拒む理由も無いのでさっさと返す。

袖口に武器を戻しながら、ライカが初めて口を開いた。

「…何故こんな所にいたんだ」

「何で、って……カレーの配達に決まってんだろ」

「……」

魔物が大量発生するような所にわざわざ住むような物好きがいるか。

ディンゴの方向音痴が最早矯正不可能な域にまで到達していることは知っている。しかし、ライカは目を逸らしている保護者を睨みつけた。

「そ、そんなことより、ライカこそ何で此処にいたんだ?」

「……任務だ。この林に魔物が大量発生したので駆逐しろ、というな」

結局、お前達がほぼ全部倒してしまったが、と彼は続けた。

「とりあえず一カ所に集まるよう誘導したんだが、お前達が紛れ込むとは想像していなかった」

「そりゃそうだろうよ…」

自分達だって、こんな自然の恵み以外は何も無いような林に迷い込んだ挙げ句、大量の魔物に襲われるとは思ってもいなかったのだから。

トマホークマンは深々と溜め息をつく。いつもいつも、ディンゴには振り回されてばかりだ。その先にあるのはたいていトラブルで、今回も例外では無かった。ライカがいなければディンゴは今頃大怪我をしていたに違い無い。

最も、当の本人は大して気にしていないらしい。

「なあ、サーチはどうしたんだ?いつもだったらお前と一緒にいるだろ?」

「サーチなら置いてきた。前の任務で魔力を使いすぎたから、回復を優先しているんだ」

唐突な話の転換にも懇切丁寧に対応するライカからはしかし、怒りの気が微妙に発されている、ような気がする。

マイペースなディンゴは、それには気付かない。

「あ、そうそう。助けてくれただろ。ありがとうな」

「………、…礼を言われるようなことじゃない」

「照れてんのか?」

「なっ…!」

…ディンゴは何処までもマイペースで、同時に正直者だった。

ライカの白い顔が見る間に赤く染まっていく。図星だったようだ。

「……っ、お前などもう知らん!」

「はあ!?何だよ、いきなり!」

真っ赤な顔のまま早足に去ろうとするライカの背を、配達籠を持ったディンゴが追い掛ける。

やれやれ。そう思いながら、トマホークマンも二人を追うため、のんびり歩き出す。風に揺られて木から離れた木の葉がはらり、草の上に落ちた。



11/05/29
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ディンゴ初登場。訳分からない話で初登場にしちゃってごめんね!
ディンゴとライカとバトルを絡ませたかった話。魔物はとりあえず林とか森にいそうなのをチョイス。キルミーは趣味だけどね!
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