舐める
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「ライカっ!遊園地行こうぜ!」
「遊園地…?」
あまりにも唐突な誘いに、ライカはオウム返しに呟く。遊園地?
「パパがチケット二枚もらってさ。でもパパは忙しいから。それで俺が誰かと行って来たら、って言われて」
「…、桜井と行けば良いだろう」
「俺はライカと行きたいのっ」
ムギュー。熱斗がライカの細い腕に抱き着く。どうしろって言うんだ。
熱斗の肩に現れたサーチマンのホログラムに助けの視線を求める。と、
『たまには良いのではないですか、ライカ様』
「………」
で、遊園地。
(確実に浮いているだろう、俺は…)
一応私服には着替えたが、明らかに周りと雰囲気が違うのだ。
「ライカー、ジェットコースター乗ろうぜ!」
「ジェットコースター?」
「あれあれ!」
熱斗が指差した先。レールの上を何かが、轟音を鳴らしながら通り過ぎていった。
「遊園地って言ったらジェットコースターだろ!?」
「……」
何だろう、嫌な予感がする。
「俺は別にい」
「なあ、行こうぜ?」
「……っ」
無意識か、それとも計算か。上目遣いなんてされたら断りにくいだろうが…っ!
結局嫌な予感に従うことも出来ず、折れてしまったライカは、今まで体験したことの無かった恐ろしさを知る羽目になる。
『…ライカ様、ご無事ですか?』
「俺の、どこが、無事に、見えるんだ…?」
ベンチにぐったり座り込むライカの顔は蒼白で、サーチマンで無くとも心配するだろう。先程から何人もが同情や哀れみの視線を向けてくる。
ジェットコースターなる乗り物は実に強烈だった。最初はノロノロだったくせに下り坂になった瞬間凄まじいスピードを出しやがり、その後は思い出したくも無い。
こっちは最悪だというのに熱斗の方はピカピカ(それともテカテカ?)していて、今はショップでおやつを買っている、はずだ。
(あいつは何処まで行ったんだ…)
十分ぐらいこのままなんだが。いつ戻ってくるつもりなんだ。
思いながら視線を走らす。恋人達、親子連れ、…
「………」
『ライカ様?』
「…、何でも無い」
言いながらも、彼女は親子連れに目を向けたまま。
孤児であるライカに親などいるはずも無く、世話になった施設も貧しかったので、遊園地なんていうお金の掛かる遊び場はとてもではないが手の届く場所ではなかった。もちろん、軍人になってから誰かと行くなど、想像していた訳が無い。
だから本当はちょっぴり楽しみでもあった…のだが、ジェットコースターで全部吹っ飛んでしまった。あ、何か吐きそう。
「ライカ、お待たせっ!やったら混んでてさあ、遅くなっちゃった」
「………」
この無邪気な笑顔。思いっ切り殴り飛ばしてやりたい。
しかし、差し出されたソフトクリームを見れば、そんな毒気はあっさり抜かれた。
「良いのか?」
「当たり前じゃん。今日は俺の奢りっ」
そう言いながら熱斗が隣に座る。美味しそうにソフトクリームを頬張るのを見て、ライカも渡されたそれを少し舐めた。
濃厚なミルクの味が口の中にふんわり広がる。甘い。
暫く夢中で舐めていたライカだが、ふと視線を感じて顔を上げる。自分をじっと見詰めている鳶色の瞳。
「何だ」
「可愛いな、って」
「……は?」
「今のライカ、スッゴく可愛い」
「………」
ペチン。
「へっ!?」
「〜っ、帰る!」
まだ舐めている途中だったソフトクリームを素早く食べて勢い良く立ち上がる。そんな彼女は耳まで赤く染まっていた。
一方、頬をはたかれた熱斗も慌てて立つと、足早に去ろうとするライカの右腕をはっし、掴む。
「ちょっ、待てよ!」
「離せっ!」
「ヤダっ!」
「離せと言ってるだろう!!」
「ヤダったらヤーダーッ!!」
意地の張り合いを止めたのはPETから響く、高く澄んだ少年の、抑揚の無い青年の、声。
『二人とも…』
『注目されていますよ』
「「………」」
我に帰って周囲を見回せば、野次を飛ばしているヤツや興味津々に見守っている同世代らしき友達連れに、居心地悪そうに去っていく者まで。…どうやら、即席の見世物状態になっていたらしい。
状況を理解した二人の顔が真っ赤になるのに、そう時間はかからず。
「…ライカ」
「…何だ」
「…………、帰ろっか」
「……そう、だな」
あんまりにも恥ずかしくて、これ以上遊んでなんかいられない。
言葉少なに歩きだしながらもちゃっかり手は繋いでいる二人を見て、PETの中の保護者達はこっそり笑い合った。
11/05/17
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前フリ長すぎるし!ソフトクリーム舐めるまでが長い!
ライカさんは絶叫系に弱いと可愛いなという妄想。熱斗君は余裕のよっちゃん。そういや久方ぶりに甘い話だなあ。