どうしたって勝てない
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吹き荒れる吹雪は自分の来訪を拒んでいる、という風にしか思えない。
カントー地方とジョウト地方の境目にそびえ立つ霊峰シロガネ山の頂上を目指して、グリーンはひたすら足を動かしていた。傍らにはリザードンのリザ。余りにも寒いので暖めてもらっているのだ。くそ、防寒コートの意味が全く無い。
「リザ、大丈夫か」
短く問う自らのトレーナーに、彼女は頷く代わりに短く小さく炎を一吹き。問い掛けた張本人は安心したように息をつくと、歩むスピードを少しばかり上げた。早く終わらせたいので有る、この雪山登りを。
そもそも、トキワシティジムリーダーという栄え有る身の彼が何故リュックを背負って雪山登りなどしているのか。
それは彼のポケギアに極々短い電話が掛かってきたのが原因である。
曰く、
『もしもしグリーン?オレオレ。いつもの持ってきて』
以上。
決してオレオレ詐欺ではない。これは正真正銘、前代カントー・ジョウト両リーグチャンピオンにして全地方における最強のポケモントレーナー、レッドからグリーンに掛かってきた、金銭ならぬ食料をたかる内容の電話である。
余りにも簡潔故に、グリーンは逆に逆らう気が失せてしまった。元々逆らえる程の度量も無いのだが。
それで彼は現在インスタント食品とサプリメントを持って雪山登りという大変不本意な行為を強いられているのだ。
(そもそも、何でアイツはこんなとこに居着いてんだよ…)
何せ、シロガネ山は年がら年中極寒に近い。更にはその辺の奴らとは比べものにならないぐらい強力な野生ポケモンがうろついている。並大抵のトレーナーではまともに足を踏み入れることも出来ない地だ。
レッド程の実力者ならば分け入ることは容易に違いない。しかし、普通は住み着こうとは思わない、はずだ(あのアイドルは例外)。
(ああ、でもアイツが普通に分類される訳無いな…)
むしろ何に分類すれば良いのか。変人?
「今失礼なこと考えてただろ、グリーン」
「おわっぷ!」
リザが反応するよりも早く紡がれた声は思案にふけっていたグリーンを驚かせるには十分に足るものだった。
「驚かせんなレッド!」
「あんまり遅いから迎えに来てやった。面倒臭いことさせるなよ」
「人の話を聞けーっ!」
何処までもマイペースのレッドが、グリーンが心の底から上げた叫びを聞いているはずも無く。
「セルフィナ、"テレポート"」
レッドの足元で優雅に毛繕いしていたエーフィ、セルフィナの額の赤い宝玉がキラリ、光る。
瞬間、二人+二体は立派なログハウスの前に立っていた。
「…おい。こないだまでテントじゃなかったか?」
「最近建てた。よく吹っ飛んでいったから」
「……だろうよ」
猛威を振るう吹雪から逃れるように、二人はログハウスの中に入る。寝袋や丸太テーブルにイス、カセットコンロなんて言うアウトドアセットからして、まともな生活をおくれているかは怪しいところだ。…本当に、風雪から身を守るためだけに建てたらしい、このログハウスを。
「で、食料は?」
「……」
腹が立つのを抑えながら、背負っていたリュックをレッドの両手の上に思い切り置いた。
「もっと気を遣えよ」
「…お前がな…!」
「俺は良いの。最強だから」
「いっぺん凍りづけになってこい!」
「だが断る」
グリーンの叫びもレッドに取っては何処吹く風。渡されたリュックからインスタント食品を取り出しては、丸太テーブルの上に置いていく。
「野菜とか無いの?」
「お前が迎えに来るんなら持って来るけど」
「じゃ明日。よろしく」
「は?いや、明日は早過ぎ」
「セルフィナ、"テレポート"でトキワジムまで送ってやって」
「はあ!?」
「また明日にな」
「いや待てって」
フィー。鈴の鳴るかのように清純な鳴き声と共に光る額の宝石。
グリーンの抗議の声も虚しく、セルフィナの"テレポート"が発動する。赤い光がグリーンの全身を包んだ。
「良いことしてやったなあ、俺」
『ですわね、主様』
友人の恨み節は聞かなかったことにしたらしい。
レッドとセルフィナはほのぼの笑う。適当に嵌め込んだ窓硝子を、吹き荒れる雪風が叩いていった。
11/05/03
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レッドさんはマイペース。セルフィナは口調だけ丁寧…や、何でも無いッス。
何時になったらグリーンはいじられ、パシリから脱却出来るかねぇ。