すこぶる不幸らしい
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火花を散らしながら、青いラインが地に引かれる。

瞬間、ラインに沿って爆ぜた蒼火。青年は後方に跳躍、少女は翼を広げ、空中に浮かび上がり大火傷の危機を回避した。

「ライカ、大丈夫か!?」

「問題無い。それより、集中しろ」

「分かってるって!」

抑揚の無い青年の声に元気良く答えた天使がくるり、一回転。廃工場の無機質な床に白く輝く羽が散らばる。

二人−熱斗とライカ−が対峙しているのは閃火の精霊、バーナーマン。各地の油田を爆破しようと目論んでいたところをエイリアが探知し、直ぐさま熱斗達が派遣されたのである。

「光熱斗に吸血鬼…。お前等を倒せば"御褒美"が大量に貰えるってもんだ。大人しく焼け死んでもらうぜ!」

「ぜっってーヤダ!大体、デリートされるのはお前の方、だっての!」

言うや否や、閃く双剣。リーチ不足を補うべく纏われた朱い炎の刃を、バーナーマンもまた蒼い炎の剣で受け止める。たちまち陥る拮抗状態。

『熱斗君!』

「大丈夫!」

激しい剣劇の最中、心配そうに声を掛けた契約精に強く答える。

一方、蚊帳の外となったライカは周囲を見回し、溜め息をつきながら通信石で出来たイヤリングを弾く。

「どうだ、エイリア」

『そうね…。貴方達がいる廃工場は特殊な結界に覆われているみたい。媒介が無いから解除するにはバーナーマンを倒すしか無いわ。でないと、脱出することも出来ない。けれど…』

「それは相手も同じ、ということか。…その方が都合が良い」

奴には散々逃げられたからな。呟いたライカは袖口から数本の投げナイフを取り出すと、今までナビゲーターが状況分析するまでの時間を稼いでいた恋人の援護に走る。

「サーチ!奴の気を熱斗達から逸らせ!」

『了解」

姿を現したサーチは幾つかの手榴弾を具現化させると、次々と安全ピンを外し、未だ熱斗と対峙しているバーナーマンの背後に投げ込む。ドォン、重なる爆発音が廃工場を揺るがす。

背後の爆発音に、バーナーマンが驚かない筈が無かった。目の前の天使の存在を忘れ、思わず振り返ってしまう。それは一瞬のことだったが、その隙を二人が見逃す訳が無い。

「もらった!」

勢い良く振り下ろされた灼熱の刃を辛うじて受け止める。力任せの攻撃をやはり力で押し退けようとした瞬間、左腕に激痛が走った。

見れば、上腕に数本の投げナイフが突き刺さっている。毒か薬でも塗り付けられていたのか、ジワジワ感覚が失せ始めて来た。

「チッ!」

元々毒や薬物に相当の耐性を持つ精霊に効果の有る毒を持っていたのか、それとも精製したのか。分からないが、放って置くのはマズイ。

右腕一本の力で熱斗の刃を弾き返したバーナーマンは己の蒼炎の剣を左上腕に添えると、何の躊躇いも無く左腕を切り落とす。勢い良く吹く血飛沫は直ぐさま赤い魔力の粒子に変わり、空気に溶けた。

「どうやら、判断力は有るようだな」

「ライカ!…あれは流石に、ちょっとやり過ぎなんじゃ…」

「あそこまで効きが良いとは思わなくてな」

「そんな適当な…あ、もしかしてこの間デート断ったのって、毒薬調合に夢中になってたから、とかじゃねえよな!?」

「それは関係無い!あの時は別の任務に急に呼ばれたんだ!」

「それは、ってことは…そうじゃない時もあったのかよ!?」

「…………」

「黙るなーっ!」

『ちょっと、二人共…!』

喧嘩なんかしてる場合じゃ無いよ!あんまりな醜態を繰り広げる主とその恋人を止めようとロックマンが声を張り上げた。が、異様な殺気を感じて続きの台詞を飲み込んでしまう。

放置をくらっていたバーナーマンはバーナーマンで、目の前の恋人共の口喧嘩に激しい怒りを持った。持たない訳が無かった。俺には百年以上恋人がいねえって言うのに何だ目の前のセイバー共は。真剣な死闘の場で何でこんなイチャコラしてんだ、当て付けか、当て付けかちくしょーっ!!

「てめぇらぁ…っ…イチャついてんじゃねえぇええぇえっっ!!」

「「はあ?」」

突然の大絶叫。当然ながら、熱斗とライカはキョトン。危険をヒシヒシ感じたサーチは素早くトパーズに身を戻し、一瞬だけ実体化したロックマンがそれを高速で回収。無言の連携プレー。

独身男の怒りが炸裂したのはその直後だった。

「消えろぉぁっ!テイルバーナーッ!!」

詠唱破棄された炎の魔術が油断していた熱斗に襲い掛かる。太い一直線に燃え上がる橙火をしかし、彼女は避けようともしなかった。

「ロックマン!」

『任せて!−ドリームオーラ!」

最強の防御魔術を詠唱破棄しながらロックマンが現れる。床から伸び上がる虹色の壁が三人を包み込み、半球体を形成した。構わず突進する橙火は壁を飲み込む様に燃え上がる。

このままでは奴らを倒せない。判断したバーナーマンは更に別の魔術を詠唱し始める。

「無駄だよ。君の攻撃じゃ、この壁を破ることは出来ない」

「やってみなけりゃ分からないだろうが!」

炎と虹色の壁の向こう側、澄んだ声が癪に障る。

「頑張るのは良いんだけど…、もう、君は終わりだよ?」

不敵かつ不吉な言葉と共に、炎に焼かれた壁が消滅した。

(な、何のつもりだ…!?)

自ら隙を曝すなど−

瞬間、漂い始めた冷気に気付く。ハッ、吸血鬼の方を見た。

淡い薄氷色の魔力が、吸血鬼を中心に広がり始めている。彼の一本括りにされた碧翠の髪が、若葉色のコートの裾が、魔力に煽られて持ち上がっていた。

「−ブリザード!」

詠唱の完了を告げる高らかな声は、バーナーマンの動きを縫い止めた。それだけの威厳があった。

刹那、凄まじい勢いの吹雪がバーナーマンを襲う。カチリ、足元が凍り付く。直ぐ閃火を走らせるが、溶かすよりも凍るスピードの方が遥かに早い。

「残念だったな、バーナーマン」

「ぐっ…」

全身凍らされる直前に言い放たれた勝利宣言には二重の意味が込められているような気がして、バーナーマンには屈辱以外の何物でも無い。

カチン。彼が凍り付く直前に見えたモノは、双剣の片割れを振り上げる天使の姿だった。

「無南散っ!」

勢い良く振り下ろされた刃は、厚い氷を砕きながら、バーナーマンの胸を袈裟掛けに切り裂いた。

(ち……ちくしょぉおおぉおぅ!!)

こんなリア充共に負けた−!

己の核、炎の精霊石ルビーを真っ二つに切られたバーナーマン最期の(心の中での)絶叫はそんな情けないモノだった…。



「で、何であんなに怒ったんだアイツ?」

「…俺には分からん」

「だよなぁ…」

(…バーナーマン、ご愁傷様……。相手が悪かったんだよ、多分…)



11/04/17
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バーナーマン初登場にして御臨終。…スマン、バーナー。私はお前が大好きなんだよ、うん。こんな扱いだけど。
戦闘全然書いて無かったなあと思ったので。あ、地味にエイリアも初登場。他のナビゲーター達もちゃんといますよ。
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