穴があったら埋めたい
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キャー!

「!?」

ビクリ、跳ね上がる尻尾。…間違いない、今の悲鳴は女性のもの。まさか、か弱い女性が男か魔物に襲われているのか!?

自他共に認めるフェミニストであるジタンがこの非常事態の始まり(かもしれない)を放って置ける筈も無く、飲みかけのレモネードを迷わず放り出すと、悲鳴の発生源と思しき方角に即座に走り出した。



…まあそんな訳で意気込んで発生源−フリオニールの花屋のバックヤードに乗り込んだは良かったが。

キャー!キャー!

「…何これ?」

「何って…マンドラゴラ、だけど」

細身の人参っぽいモノを手にしたヴァンが平然と言う。傍らで倒れているのはバッツとオニオン。ルーネスはキョトンとしていた。…ああ、こいつは人間だから逆に聞こえ無いんだな。この悲鳴めっちゃ高いもんな近くで聞けば。って、そんな冷静な分析してる場合じゃないし!耳痛いマジで!

マンドラゴラ。生ける草である。見た目は人参に酷似しているが、こいつらには子供が適当に書いたような目と口が有る。そして引っこ抜かれ時、マンドラゴラは自らを引っこ抜いた不埒な輩の魂を抜く為−ではないが、とにかく殺人的な悲鳴を上げるのだ。…あまりにも高音域過ぎて、人間よりも聴覚の優れた種族にしか聞こえないのだが。あいにく、ジタンは猫であった。聞こえてしまうのだ。

キャー、三度上がる悲鳴、いや鳴き声。反射的に耳を押さえる。ヤバい、ヤバいってこれ!

「サイレス!ヴァンでもルーネスでもどっちでも良いからサイレスかけてホント!!耳痛い!!」

「「え、何で?」」

「耳痛いって言ってるだろー!」

殺人的威力の鳴き声が聞こえない二人はどうやら、事態の深刻さ加減にも気付いていないようだ。屍(ではなく気絶しているだけ)も頃がっていると言うのに。

ぶっくり膨らんだ金の尻尾を見て漸く気付いたのか、ルーネスがモゴモゴ、口を動かす。

そして、詠唱が完成する−

「サイレス!」

「ムゴブッ!」

…術は何故だか、ジタンにかかったのであった。

「ムー、ムガーッ!」

「なあ、何て言ってんだ?」

「多分…、何で俺にかけるんだ、じゃないか?」

「ムウムムッ!」

言葉を封じられたジタンが激しく頷く。ヴァンの推測は当たりのようだ。

「あ、もしかしてマンドラゴラにかけるんだったか?スコールとおんなじこと言うな」

「!」

能天気なヴァンの台詞に機能停止寸前の耳がピクピク。この場にはいない半人半猫の女傭兵の名を聞いて、ジタンがあからさまに動揺する。いったい全体どういうこと何だよ!

そんな動揺など知らぬと言わんがばかりにパチン、ルーネスが指を鳴らす。術の解除。同時に鳴り響くマンドラゴラの悲鳴、キャー。

「プハァッ!−ッ、話の前にマンドラゴラどうにかしてくれって!」

「了解。−サイレス!」

魔法が不得意なヴァンにしては妙に流暢な詠唱と共に、細って消える鳴き声。苦しげだったジタンの表情が安らいでいく。

「助かったぁ…。で、スコールがこの人参モドキとどう関係してるんだ?」

「えーっと、それは…」

−フリオニールの家計簿が毎月ほぼ確実に赤字である、というのは仲間内では有名な事実だが、これをスコールが気に病んだのが始まりだった。

傭兵である彼女は各地のギルドに自由に立ち入り出来る。その内の一つで、マンドラゴラ納品の依頼を発見した。依頼者と話すと割と高額の報酬支払いを約束された(というか報酬を巧みに釣り上げた)ので、依頼を引き受けるやいなや準備を整え、直ぐに採集に向かい、見事に依頼を成功させた、ということらしい。

「ちょっと待て。それなら何でお前がマンドラゴラ持ってんだよ」

「何でって、…俺も着いて行ったからだよ。一緒に来てくれって頼まれた時は何かよく分かんないけど面白そうだな、って思ったからさ」

マンドラゴラ採ってからはずっとサイレスかけてたけど、と笑いながらヴァンは続けた。

(あー…)

よーく分かった。様々なことに真面目な彼女の目を盗んで、ヴァンは自分の分も採ったのだろう。空賊である彼は裏ルートにある程度精通しているだろうから、そこに流すつもりなのかもしれない。…そんな考えには到っていないと思いたいが。

「で、そのスコールは何処なんスか?」

「んー、俺と別れてから直ぐにギルドに行ったから、そろそろ来ると思……アレ?」

突如闖入した声。誰だいったい。

水槽に顔を向ける。そこには何時の間にやら、興味津々気のティーダがいた。

「何時から居たんだよ!?」

「確か、…うーん、ジタンがサイレスかけられた辺りから?」

((全然気付かなかった…))

お喋り好きなティーダにしては随分長く黙っていたものだ。

彼女がまた口を開こうとした時、ガチャリ、扉の開く音。ゼリーカップの乗ったお盆を持ったフリオニールと妙に膨らんだ肩掛け鞄を掛けているスコール。二人共、目の前に広がる惨事の様に唖然としている。

「…何があったんだ…?」

「全てはマンドラゴラのせいだと思うッス!」

「あっ、言うなよティーダ!」

あっさり言ってしまった人魚の口を塞ごうと、ヴァンが慌てて腕を伸ばすが所詮はアクリル越しである。まるで意味を成さない。

直ぐさま事態を察したらしきスコールがヴァンをジロリ。凄まじい威圧感が彼の口を押さえ込む。

「ヴァン。必要数以上は採集するなとあれだけ言っただろう…!」

「ご、ごめんって!もうしないからさあ、今回はこの通り!」

必殺、土下座を繰り出した情けない吸血鬼に、スコールは一転、深々と溜め息。

「…もう良い。それより、フリオニール」

「何だ?」

床で気絶している犬科二人を優しくベッドに運んでいるフリオニールがキョトンとした顔で振り向く。その眼前に突き付けられる、口の開いた肩掛け鞄。

「…大した額じゃないが、家計の足しにはなるんじゃないか」

たまに居候させてもらっているからな。ボソボソ、続けられる。顔は僅かに赤い。

「スコール…」

何処か感動した眼差しで鞄の中を覗き−

「ウボアァァァッ!!」

パタッ

「フリオぉっ!」

「え、何々?エロ本でも入って…あ、何でも有りません、ハイ」

調子に乗ったジタンをギロリ、睥睨してからスコールは首を傾げる。そんな悲鳴を上げるような金額だっただろうか。

「…なあ、スコール」

「何だ」

「傭兵って儲かる仕事なのか?村の予算でもこんな大金、見たこと無いんだけど」

呆然としたルーネスの言葉に何度か、瞬く。そうか、大金なのかこれは。確かに報酬としては多い方だったが、半分は自分の口座に置いてきたし、このぐらいならフリオニールも気に病まないと思ったんだが。

悩むスコールの援護をしようと思ったのか、ティーダが慌てて言葉を紡ぐ。

「そ、それぐらい俺の年俸に比べたら端金ッスよ!」

「ウッボアアァァアァッ!!」

ビクビクッ、チーン。

「あのさあ、追い撃ちかけてどうすんだよ」

「え、え、えぇっ!?」

「これが端金って…。ブリッツ選手のエースの年俸って凄いんだな」

「……スコールもティーダもさあ、金銭感覚おかしい、絶対」「そんなこと無いッス!」「…そうだろうか」

絶対おかしい!声を揃える男三人の台詞に、女性二人は顔を見合わせ、ただただ不思議そうに首を傾げる。

キャー、サイレスが解けるなり響いたマンドラゴラの叫びは誰の心境を示したものなのか。あいにく、この場の誰も分からなかった。



11/04/03
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マンドラゴラ、キャー。8のあの可愛いマンドラゴラじゃないッス。
このパロでのスコールとティーダは金銭感覚ズレしてます。バッツとオニオンとフリオはこの後復活した、筈。金は受け取られたか不明。性格的に受け取ってなさそう。
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