歪みを生む虚構の平和
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この地方にしては珍しく、雪が優しくちらほらと降っている。
疎らに家の建ち並ぶ雪原の中、碧翠の髪の小さな子供が雪だるまをぺたぺた、作っていた。その様を、雪だるまを挟んだ向かいで、オレンジの髪の女性がぼんやり眺めていた。
ぺたぺた、ぺたぺた。雪だるまは少しずつ、確実に大きくなっていく。小さな手が雪を掴み、雪だるまに擦り付けていく。
「……」
そろそろかな?頭の中でそう考えて、すぐ近くに置いてあった枝をサクサク、体に当たる雪玉に刺す。葉っぱをペタリ、頭の雪玉に。目と口。
子供が作ったにしては大きい雪だるまの完成。それまで仏頂面だった子供の顔に少しばかり、笑みが宿る。
「ねえ、出来たよ」
目の前に出来た雪だるまから目線を上げて、女性を見る。
何も変わらない、ぼんやりした顔、瞳。
「……やっぱり、分からない、よね」
「あの時」からずっと、彼女は今のまま、まるで人形みたいで。
「−っ」
ほろり、零れ落ちそうになる涙を堪えて。
「…、要らない…っ」
自分にとっては良くても、彼女の心に少しも引っ掛からないのなら、要らない。
高ぶった感情のまま、腕を振り下ろす。バガリ、崩れ落ちる、雪だるま。
砕け落ちた雪の砕片を感情の無い紅玉の瞳で睥睨して。
ふらり、去って行く。頼りない背中が小さく、見え無くなっていくその様を、彼女はぼんやり見送って、そして。
「……」
感情の無い深紅の瞳が見下ろす。形を無くした雪だるま。
それまで身じろぎ一つしなかった彼女が初めて、腕を動かす。ぺたぺた、覚束ない手つきで、雪だるまを少しずつ再生させていく。
形を取り戻していく雪だるま。子供が作ったその時よりも、不格好で。
ぺたぺた、ぺたぺた。形の悪い雪だるま。枝と葉っぱを見つけ出して、枝を刺す。葉っぱをつける。
出来上がり。顔も崩れて、枝も腕にしては妙なところに刺さっていたけれど、それは確かに雪だるまだった。
「……」
辺りを見回す。…いない、子供。
「…ライカ、さま……?」
どこに行ってしまったのだろう。せっかく上手く、出来たのに。
雪だるまにそ、っと触れて、立ち上がる。大事な主を探しに行かなきゃ、見つけ出したら、ほめて欲しいな。
目に見えない細い契約の糸を辿って、彼女もまた、ふらりふらり、歩き出す。
後に残されたものは、たった一体の歪な雪だるま。
雪を被った、その淋しい姿は、姿は、まるで−
11/03/05
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一回やってみたかった、中途半端な終わらせ方。わざとッス、はい。
サーチの思考回路がヤケに子供っぽいのには色々理由が有ります。まあそれはまた今度。