貴女は燃えるように生きていて
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
彼女が羽ばたくと共に舞い散る羽が、白い焔の様だ。そう思った。
だから、彼女との訓練を終えた後にも訓練場に居残っていたのだ。
『何をしていらっしゃるのですか』
「見て分からんのか」
『俺には、光熱斗の羽を無意味に集めているようにしか見えませんが』
実にズッパリ。確かに第三者からはそうにしか見えないだろう、ライカの現在の行為は。
白く淡く輝く熱斗の羽。綺麗だ。
「何と無く、勿体無いと思っただけだ」
『………』
「これで糸を紡げば、質の良い布が織れるかもな」
ライカ様、その発言はどうかと思います。
賢明なるサーチは決して口には出さなかった。出さなかったが、雰囲気で分かったらしい。
「…冗談だ」
『そうですか』
「枕か人形の中身にでも」
『ライカ様。その様なことはただの変態の行為としか思えません』
「……」
随分口達者になりやがって。昔なら何も言わずに納得していただろうに。
「…傍に置いておきたいだけだ……」
『光熱斗の代わりに?』
「よく分かったな」
『丸分かりです』
「……」
何故分かったんだ。分かり易いのか、俺。
…熱斗のことは、好きだ。初めてあった時は、何でも無い、むしろ目障りでしか無かったのに。
この世で一番呪われた存在である吸血鬼。それが自分。天上の存在、天使は少なからず清い存在で、結ばれるには、あまりにも掛け離れていて。
ならばせめて、彼女に近しい物で、穴埋めを−
『何故、彼女を好きになったのです』
「…分かっていれば、悩んでいない……」
『……』
恋は理屈じゃない。桃色天使が何時の日か、そう言ったことを思い出す。
「…好き、かあ…」
『……』
白い羽。舞い散る様は焔の様な、彼女の生き様の様な。
何もかもを凍らせる、自分自身も凍てついてしまっている、自分とは正反対で−
…それに、それに。
『ライカ様』
「何だ?」
『…その、俺は別に、貴方が誰を好きになろうが構いませんよ?』
「……何をいきなり言っているんだ、お前は」
『……』
実体化した彼女は深紅の瞳を主から逸らしながら、ボソリ。
「貴方が、俺に遠慮しているように思えた、ので」
「……っ」
唇を噛み締める。…図星だったから。
「別に、光と付き合いだしたところで俺との縁が切れる訳では無いのですし、…それに」
「…それに?」
ライカのか細い追求の言葉に、彼女は僅かに笑いながら。
「貴方が幸せなら、俺も、幸せです」
…幸せ?何だ、それ。
「…悩み続けていても、今の貴方は、幸せそうに見えます」
俺が覚えている限りの昔より、ずっと、ずっと。
続けて告げられた言葉にズキリ、痛みが走ったのは気のせいだろうか?
(俺は、)
「ライカ様?」
「……、大丈夫だ、気にするな」
「……、はい」
あからさまな強がりに、しかし何も聞かず、サーチはその身をトパーズに戻す。
空から落ちるそれを空いている片手で掴む。それから視線を落とすのは、もう片手の中の白い羽。大好きなあの娘の、ほんの一部。
「…っ」
ぐっ、と。強く強く、握り締めて。
くしゃり、形の醜く崩れた羽。それでも手放すことが出来なくて。
ゆらり、歩き出す。もう「いつかの昔」には戻れない。ただただ、そう感じた。
11/03/04
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
取り敢えず熱斗が大好きなのになかなか前に出れないライカさん。そんな主が自分に遠慮してるんじゃと気になるサチ。
うーん、いつラブラブになるのかねえ。