巡る
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蜥蜴という生き物は天敵に襲われた際には自ら尻尾を切り落とし、敵が尻尾を攻撃している隙に逃げ出すのだという。
今のナナシ−いや、ラグと呼ぶべきか−とアルトの状況は正に、本体に置いていかれてしまった尻尾だった。
「良いのか、アルト。暫くは獄中生活になるんだぞ?」
「俺は別に構わない。強要とは言え、それだけのことしたんだし」
「……」
こんなんでも、一応人間でいう「兄」の一人である。だから気遣いめいたことを言ってみたのだが、…どうやら、どこ吹く風のようだ。
底の読めない笑みを浮かべるアルトに、サーチマンは呆れた溜め息をつく。これでは軍も使えないとする筈だ。
「……なあ、サーチマン」
「…何だ」
「止めてくれて、ありがとな」
ポツリ、呟かれた台詞に目を見開く。
「……、実際にお前達を止めたのは俺じゃない、光とロックマンだ。礼ならあの二人に」
「いんや、俺が止まれたのはお前のおかげだね」
意味が分からない。
瞳で問う。彼の、自分と同じ色の瞳を直視。そこから視線は外さない。
と、アルトは苦笑しながら告げる。
「俺、ロックマンのこと本気で倒すつもりだったんだぜ?お前が来るまで、な」
「………」
自分が駆け付けた時にはもう、ボロボロになっていたチームメイトの姿を思い出す。
「倒さなくて良かった。アイツは良いわ、ホント。何かの希望持てるぜ」
「何か、とは何だ」
「さあ?」
「………」
訳が分からない。
「世の中、そんなもんさ。口じゃ説明出来ないってことがあんの」
「…そういうものか?」
「そういうものさ」
するりと抜けられた。そんな気がした。
この話はもう終わりにしても良いだろうと思うから、別のことを聞く。
「出所したら、どうするんだ」
「んー……、そこは全部ラグに任せるかな」
「…食いぶちとかは」
「ああ、アイツ人並み以上には占い出来るから。詐欺とかじゃなくて、本物のな。それでどうにか出来んだろ」
「………」
彼の主の意外な特技よりも、自分の言動に驚いた。
(何故俺は、こんなことを聞いているんだ?)
心配なのか?目の前の、心配するだけ損するような「兄」のことが−
分からない。
「それにしても、俺って幸せ者だな〜」
「…?」
「作り手には使えないって、捨てられたけどさ。おかげでラグに会えて、面白い奴らとワイワイやれて、興味深いのと戦えて、…そんで、可愛い「弟」とこうやって話が出来て、しかも心配までしてもらえて」
「−っ」
可愛い?自分の何処が?心配?やっぱり俺は心配しているのか?
分からない。「初めて」が多過ぎて分からない。
「おーい、今にも発熱しそうな顔になってんぞー」
「……、黙れ」
「口まで主に似てやんの。「弟」にそんな荒く言われて世知辛いねえ世の中は」
「……!」
「弟」と言われるのは何だかむず痒いが、それよりも苛立ちが上回る。何なんだ、お前の方がよっぽど性質が悪い。
「ま、取り敢えずだな。心配しなくて良いからな、俺とラグのこと」
「…心配などしていない」
「あ、そう」
別段気にしていないような、そんな声色。
「…出所したら、多分シャーロには戻らない。ずっと、ニホンにいるだろうな」
「………」
「お前は元より、ライカにまで迷惑掛ける訳にはいかないかんな。……そりゃあ、昔の仲間がどうしてるかは気になるけど」
「知りたいのか」
「んー…あいつらなら大丈夫そうな気もするから、やっぱ良いわ」
「……」
…もう良い。コイツはコイツで良い。
そろそろ疲れてきたサーチマンは主のPETに戻ろうと、「兄」に背を向ける。話は終わりだと、無言で告げる。
「また会おうな、愛しの「弟」」
「………考えておく、「兄さん」」
するり、滑り落ちた自分の言葉に驚く。
赤く染まった顔は見られたくない。思いながら、歩き出す。電脳空間に溶けゆく己の体。
その様を、アルトはただただ眺めていた。
11/02/27
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何だこの話。サーチとアルトを兄弟みたいな関係にしたからそれっぽいのを書いてみたんだが。結局アルトに「弟」と言わせてみたかっただけという。
ああ、時間軸は5の第6話終了後です。