夕立のなか、歩いて行こう−1
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フリオニールとティーダが喧嘩した。
単純明快な事実がジタンの手に寄って広まっていったのは実に猛スピードのことであり、いつもの面子がフリオニールの経営する花屋のバックヤードに集まったのは翌日の昼休みであった。
「バレンタインに喧嘩別れ、とはな」
「フリオニールらしいといえばらしいよね」
淡々としたライトニングの台詞と、オニオンの無邪気な悪意に満ちた言葉が昨日から落ち込み続けているフリオニールの心を抉る。
「で、件のチョコレートはどれ?」
「うーん、これじゃね?」
これまた無邪気に(ただし、オニオンと違って計算詰めの)ダメージを与えようとするセシルに、人の部屋を勝手に家捜ししていたバッツが(天井板が直撃したせいで)ぼっこり凹んでいる箱を手渡してしまう。
喜々として箱を開けようとしているセシルを制止しようとスコールが手を伸ばすが、その手をジタンがすかさず掴む。ひそやかに恋心を傾けている彼女には、セシルの加虐心の犠牲になって欲しく無い。
結果、フリオニールのプライベートの塊の封印は解けたわけで。
「見るも無惨、だな」
「……確かに…」
バラバラに砕けて細かくなったチョコレート。ライトとクラウドがこんな感想を抱くのも無理は無い。
「バラバラになってるから分かりにくいけど…、これは絶対本気だね」
「…可哀相…」
水槽の縁に座る二人−オニオンとティナ−から的確な追撃。
「美味いじゃんこれ!」
「口ん中でとろけるのがたまんないな!」
「僕にはちょっと甘いけど…フリオニールにはこれぐらいがちょうど良いのかな?」
勝手にチョコレートの欠片を食べているバッツとヴァンとセシルからの正直な感想。
「あの時はちゃんと見てなかったからなあ……板ぶつけたのはミスったな。勿体ないことしちゃったぜ」
「………悪く無いラッピング、だとは思う」
べっこり凹んだ箱とラッピングを賞賛するはジタンとスコール。
「これでは、ティーダに引っ叩かれるのも仕方の無い話だ。別れるのも覚悟した方が良いだろうな」
挙げ句の果て、ライトニングにぐっさり止めを刺されてしまった。
完全撃沈したフリオニールを流石に哀れんだのか、ジタンが慌てて言葉を繋ぐ。
「え、えっと…贈り主はマリアちゃん?」
「誰だ、それ?」
「………俺の…義理の妹だ…」
「フリオニール妹なんていたのかよ!」
「いるんだ。…だから、別に浮気した訳じゃない。マリアは毎年くれるけど、それは義兄妹だからっていうだけだ」
「それは絶っ対無いね!」
「お前の方はそうかもしれないが、相手は確実に本気だろう」
「これはちゃんと説明しないと、色々とマズイぞ」
「…それは分かってる。分かってるんだが……」
「なかなか決心がつかない、っていう訳だね?」
(珍しく)優しいセシルの台詞にコクリ、フリオニールは頷く。
「ティーダは思い切りが良い娘だからね。そんなに優柔不断だと余計に嫌われるんじゃない?」
ザシュッ!
フリオニールに9999のダメージ!
フリオニールは倒れた!
「フリオぉお!」
「俺ですら言わなかったのに!」
「いやあ、事実だし」
(こえぇ…)
つくづく恐ろしいパラディン様である。
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