すべてを殺した願いの跡
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ふと目覚めた時には世界は真っ暗で何も見えなくて何も聞こえなくて何も感じられなかった。

(……此処は…)

何処?

小さな呟きは闇に吸い込まれたようで、答える者はいない。

(ブルースは…)

いない。

いつもいつも傍にいてくれた存在の気配が感じられない。

それで初めて、自分が死んでしまったことに気付いた。

(……)

父さんはどう思うだろう。部下達は、ブルースは…?

最期の時を思い出す。ああそうか、俺は…私は。何処ぞの誰かに差し向けられた暗殺者の懐刀に刺されたんだっけな。だから死んだんだ。

…本当はあの程度の攻撃、避けることは出来たけど。

(私は、死にたかったのか)

"女"として生まれて"男"を演じることに疲れた。求められるモノに応えることに虚しさを覚えた。このまま生きていても永遠に手に入らない愛情が欲しかった。

…だから、"死"を選んだのだと思う。

(…本当に?)

死にたかった?

分からない。

甦ってくる、刃が己の胸を貫く感覚。

(……寒い…)

先程までは何も感じなかったのに。

ふと違和感を感じて、胸元に触れる。手の平にべったり、赤い血。

(…これは、死んでも当たり前だな……)

致死量には達している、確かに。

(アイツは……目の前で見たのか…)

刃が突き刺さって、私が死ぬところを−

今どう思っているのだろう。悲しんでいるのか、怒っているのか、今、今、今。

何処からか、悲鳴が聞こえたような気がした。

(ブルース?)

振り向いても誰もいない。でも−

確かに、聞こえる。悲鳴。苦痛と悲哀と、憤怒に満ちた。

(……)

泣き叫んでいる?

一瞬浮かび上がったヴィジョン。口元と胸元から血を流して死んでいる自分を抱きしめて、綺麗な銀の長髪を血で染めて、周りに大量の死体が散らばる中で。

泣いているのか?…私が死んだから……?

(……っ)

…ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。

あんなに泣いているのに、シニタイとか思って、本当にゴメンナサイ。

…やり直せるのなら。今度はちゃんと生きるから。生きたいと思って生きるから、だから。

モウ、ナカナイデヨ。



…何処からか、声が聞こえた。

クスクス笑う、女の声…

『貴女、泣いてるの?』



…泣いてなんかない。思っていた。

『そんなに生きていたいのね…』

生きている時にはそう、思っていなかった。でも、今は。

『私の力を、あげましょうか?』

…訳が分からない。何だ、それ。

『…私は死神。生死の秩序を統制するもの』

…死神なんて、本当にいるのか。

『ええ。私自身がその証拠』

じゃあ、姿を見せろ。

『…それは、無理。私はもう、死にたいと思っているから。体を捨てたから、誰にも見えないのよ』

死にたいんだったら勝手に死ね。

『あら、酷いわね。…そうね、死にたいわ。長く生き過ぎたから。でも死神としての力がある限り、死ねないのよ』

…だから?

『そう。死神の力があれば、貴女はずっと生きれるわ。そして私は死ねる。良い取引でしょう?』

そうかもしれない。

べったり、血に濡れた胸元を誰かに触れられた。何か、流れ込んでくる。そんな感覚。…気持ち悪い。

『…羨ましいわ。本当に大事に思ってくれてる人が、いる』

貴女、その人にだけは忘れ去られずに済むかもね。

意識が闇に溶けていく中、そう淋しげに呟く女の声が、聞こえた。意味は、…分からなかった。



それから、私は…俺は。死神としてずっと生き続けている。ブルースと一緒に、ずっと、これからも。

…これからも。

今更"女"として生きることも出来ないし、心の底からやりたいことも見つからないし、忘れ去られて二度と思い出すことが無いから愛情も手に入れられない。

死神として義務を果たしながら世界をさ迷う。それだけ。

…それだけで良い。

淋しいとか、そんな風には思ってない。思ってはいけないから。

ただ、歩こう。前だけ見て。



……でないと、後悔で心が押し潰されそうになるから…。



11/02/18
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炎山は悩み事とか全部自分の中に溜め込めそうなイメージ。自滅しそうになる寸前に初めて誰かに相談させられそうな。
さてさて炎山が死神になった時の話。なんて炎ブル炎とか言ってはいけません、多分。…赤組書くと絶対雰囲気が極端になるんだけど何でだろ(聞くなよ)。
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