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『お願い、私を匿って−』

そんな唐突な台詞に大人しく従って連れられた少女アイドルに、セイバー本部は一瞬騒然となった。

「…で、どうするつもりなんだ?伊集院、星川」

キロリ睨みつけてくる蒼の双眸に、二人は全く同じ対抗手段、則ち沈黙を取った。と言うより、二人も事が急激に運んだせいで事態を整理しかねているので、誰にも説明が出来ないのだ。

貝の如く口を閉ざす二人と睨み合うゼロだったが、ガラリ、扉の開く音を聞いてそちらに顔を向ける。

「エックス」

「…俺、もしかして邪魔?」

同僚であるとは言え、炎山とスバルは(外見は)若い乙女。対してゼロは生の良い青少年。しかも空気は何処か緊張感を含むもの。…これでは何かしらの誤解をされてもおかしくは無い。恋人であるから尚更、気まずい。

恐らくゼロに提出しようとしていたのであろう書類の束を抱えたまま去ろうとする彼女を、ゼロは慌てて引き止める。

「待ってくれ、エックス!」

「ゼロ…」

「俺は二人から、あの少女を連れて来た理由を聞きたいだけなんだ。直ぐに終わらせるから、お前はもう少し此処に−」

「……ねえ、ゼロ。言いにくいんだけど」

オロオロしながらも、一言。

「…二人共、もういないよ?」

「………はっ?」

恋人の控え目な台詞に一瞬呆気に取られ、ゆくり、視線を動かす。

先程までは確かにデスクの前にいた二人の姿は完全に失せていた。−逃げられた。

「……っ!」

「…ごめん、ごめんね、ゼロ。俺が来なかったら−」

「…いや、お前のせいじゃない……」

あの二人、次に見掛けたら絶対にシバく。



そんな先輩セイバーの決意を露とも知らぬ二人は、適当に捕まえた後方支援部の青年から聞き出した、ミソラの現在の居場所に向かっていた。

何やら事情を抱え込んでいるらしき彼女に聞き出したいことがたくさん有る。

(……あの件が関係しているかもしれんしな…)

「…ねえ、炎山君」

「何だ」

「……ミソラちゃんは、僕に似てる」

そう、似ている。展望台で、ミソラ自身にそう言われて、…確かに、そう思う。

どうしたら良いのかなぁ。頼りなく笑いながら、二百年を生きた妖魔の少女は呟く。

「…言葉じゃ、どうしようも出来ないよ、僕。だって、」

自分にも言える。何を言っても、それは鏡に言うに等しいことだから。

…だから、言えない。

「同じような境遇の他人にいっぱい耳障りの良いこと言って、そのくせに自分は向き合えていなかったら、…意味が、無いんだよ……」

蚊の鳴くような小さな声での吐露に、炎山も、ブルースも、ウォーロックも。何も、言えなかった。

どんどん歩みは鈍くなる。彼女の居場所、屋上は近いのに、いや、だからだろうか。

甲高い悲鳴が聞こえたのは、まさにその時だった。

『この声は……炎山様、星川!』

「ああ。行くぞ、星川、ウォーロック」

「う、うん」

『……しゃあねえな』

スバルはやや控え目に、ウォーロックは如何にも面倒臭そうに答える−



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