レシピいらずの究極料理
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全ての始まりは、ラグナのこの一言だった。
「スコール、父さんに手作りチョコくれない?」
−数秒後、ラグナはガンブレードの錆となってしまった…。
そして、今。
「ラグナさんに手作りチョコ、ッスか?」
水槽の縁から身を乗り出したティーダに、スコールは僅かに顔を赤らめながらコクリ、頷く。
仕入れたばかりの百合の手入れをしていたフリオニールが幾つかの箱と共に部屋に戻ってきたのはその時だった。
「フリオニール、何ッスか、それ?」
「……」
「フリオニール?」
「………だ」
「聞こえないッス!」
詰め寄るティーダの勢いに負けたフリオニールはぼそぼそ、白状。
「これ……チョコが…店先に置いてあったんだ…」
「………」
多分お客さんの女の子からだろうけど、なんて言う続く台詞は聞かれていない。
水槽に張られた水が、人魚姫の怒りを受けて波立っている。
巻き添えになるのを避ける為、スコールが水槽からそそくさと離れた途端、ティーダの怒りが爆発した。
「こんの浮気者ぉおおぅ!」
「ちょっ、ちがっ…」
ビチッ!
素晴らしいスピードでフリオニールの頬に決まったのは、尻尾ビンタ。微妙に魚臭い。
「もうフリオなんか知らないッス!」
「えっ…ま、ま、待ってくれティ」
「うわぁぁあん!」
キラリ、金の光。テレポストーン。
フリオニールが慌てて水槽に駆け寄った時にはもう、彼女は姿を消していた。
(………)
これがいわゆる、痴話喧嘩というやつだろうか。それにしても魚臭い、あ、魚食べたいな。
頭を抱えて落ち込んでいるフリオニールの情けない姿を眺めながら、傍観者になったスコールはぼんやり考える。
「……スコール」
「………(何でこんな微妙な空気の中話し掛けてくるんだ…)」
「…どうしたら良いんだ、俺……?」
「………」
流石に「知らん、自分でどうにかしろ」とは言えない。だからってどうすれば良いんだ。
「そういう時は俺に任せろ!」
「「うわぁっ!?」」
どっからともなく声。直後、バカリ、天井板の内一枚がフリオニールが落としたチョコ(の入った、丁寧なラッピングに包まれた箱)に直撃。出来た穴からひょっこり頭を覗かせたのはジタンだった。何でいるんだ。
「いやあ、たまたま店の裏手通り掛かってさ、ついでに声掛けようと思ったんだけど、窓から見たらすっげえ修羅場っぽい感じだったから天井裏からお邪魔した方が良いか、って」
「何でそこで天井裏になるんだ…」
「その方が盗賊っぽいじゃん」
「そういう問題じゃない!スコールも何か言−」
フリオニールが振り向いた時。スコールはキッチンを無断拝借、持参していた板チョコを刻み始めていた。…どうやら、これ以上関わるのは自分の身には余ると判断したらしい。
がっくり肩を落とした彼の耳に、ジタンの御高説は残念ながら届いてはいなかった。
数時間後、エスタ大統領邸。
「キロス、聞いてくれよ〜!スコールが俺の為にチョコ作ってくれたんだぜ!しかもポン●リング味の!」
「いやいや、愛されてるねラグナ君」
「んで、キロスも食べるか?うんまいぜ〜」
「慎んで遠慮させてもらおうか」
ラグナとは古い付き合いになるキロスは、この友人の味覚はどこか、いやかなり変わっていることを良く知っていた。そんな彼が「うんまい」というチョコの実際の味がとんでもなくヤバいというのは簡単に予想出来る。
えー。残念そうに声を上げながら、ラグナは最後の一粒を頬張った。その様を陰からこっそり見ていたスコールはやはりほんのり顔を赤らめながら、そして微笑を浮かべながら静かに自室に戻った。
11/02/14
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まあ要するにスコールはツンデレで味覚はきっとアレだよね、という話。彼女はチョコの作り方を料理上手の二人に教えて貰おうと考えてたのです。なんか喧嘩勃発したフリオとティーダとかどうやってジタンが侵入したのか、とかいう話はちゃんと書きます。