「いま人生どこらへん?」
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自分の父親ラグナ・レウァールは世界でも比較的有力な国、エスタの大統領。必然的に、自分は大統領息女ということになる。だから、こういう場に着飾って出席しなければならないのは仕方ないことなのだ。

頭では分かる。そう、頭では−

(どうして俺がこんな格好をしなければいけないんだ?)

こっそり会場を抜け出して、適当な部屋に避難してから漸く息をつく。ほんの数分しかない休息の時間。誰にも干渉されず、静かに過ごしたい。

パイプイスに乱暴に座り、化粧台に置かれていた未開封のペットボトルに手を伸ばす。ミネラルウォーターだ。

何の気無しにそれを飲み干し−そして、気付いた。

(此処は、何処だ?)

化粧品が広がっていたり、衣装ケースが何個かあったり、マネキンやドレッサーに衣装がかけられていたり−明らかに使用中だ。更に、床に広がるは−

「あれ、スコール?」

「−−ッ!」

聞き慣れた声が背後から。自分の、焦げ茶の毛に覆われた尻尾が膨らむ感覚。

「可愛い格好してるじゃん。−じゃなくて、何してるんだよ」

(それは俺が聞きたい)

ジタン・トライバル。劇団兼盗賊団「タンタラス」の一員である猫の少年だ。普通なら各国のお偉方とその身内のみが集まるパーティー会場の控室になど来れるような身分ではないのに、何故此処に。

青灰色の双眸に滲み出る疑問に気付いたのだろう、ジタンは更に口を開く。

「いやあ、今回のパーティー盛り上げ役にうちの劇団が呼ばれたんだよ。それと…」

何かを確認するように碧玉の瞳を動かしている。−今から話すことが漏れては困るのだろう。

話はさっさと済ませたい。唇を強く引き締めたまま、先程拾った台本らしき本に、懐から取り出した折り畳んである紙を挟みジタンに渡す。

「おっ、見取り図?…この部屋は大丈夫そうだな。サンキュ」

「……いや」

会場に入る寸前に渡された、監視カメラと盗聴器が仕掛けられた位置が網羅されているこの建物の見取り図。本来ならみだりに他者に見せる訳にはいかない代物だが、あながち無関係者とも言えないこの友人が今から探し回るよりは楽だろうと判断した。

素知らぬ顔で返された見取り図を直しながら、次の言葉を待つ。

「シドのおっさんに今回のパーティー内容を報告して欲しい、って頼まれてさ。…また奥さん怒らせて、今ちょっと外に出たりとか出来ねえ見た目になってるから、俺達が代わりに」

「……」

道理で欠席だった訳だ。今頃ブリ虫か蛙か、はたまた別の生物の姿に変えられたまま自国で待機しているに違いない。

今回のパーティーはエスタが主催しているものだ。目的はエスタが鎖国状態を解除したこと、並びに前大統領治世から政策を方針転換したことを周辺国にアピールすること。国家間の中立的立ち位置にまわることの多いリンドブルム国の統治者として、このパーティーに出席し情報を手に入れ無い訳は無い。とは言え、ブリ虫オア蛙オアその他生物、とにかく人間外の姿で国外に出る訳にもいかない。

そこで、シド太公直属諜報部隊「タンタラス」の出番となったのだろう。

「にしても、今のスコールホンットに可愛いぜ?」

「………」

引っ掻いてやろうか。

歯の浮くような台詞を何の躊躇いも無しに言ってのけた目の前の猫野郎に爪を立てそうになるが、手袋(それなりに高価)をはめていたことを思い出し、断念。代わりに空のペットボトルを突き付ける。

「あーっ、俺のじゃんそれ!全部飲んだのかよぉ…」

「そこにあったんでな」

ジタンの物だったとは露とも知らなかったが、しかしいけしゃあしゃあと言う。

「舞台って結構汗かくんだからな!」

水分補給は絶対必要なのに、とでも言いたいのだろうか。まあ確かに、生物は生きる為に水分は必要不可欠だが。

流石に罪悪感はあった。が、代わりを買おうにも自販機なんか有りはしないし、そもそも金は控室の金庫に厳重保管してしまったし、更には時間が無い。そろそろ戻らなければ怪しまれる。

「仕方ねえなあ。あんまり手出したく無かったんだけど、予備の使うよ」

(予備なんて有るのか)

「だからさ、スコール。…そんな顔、するなよな」

(……は?)

そんな顔って、どんな顔−

ぐいっ。いきなり頬を挟んできた手が力ずくで鏡に顔を向けさせる。

映った顔。それは、それは−

(……っ)

青灰色の瞳で、薄桃色の頬で、桜色の唇で、顔全体で、憂いを表現する少女。

それが自分だとは認めたく無くて。スコールはただただ、唇を強く、強く噛み締めた。



11/02/07
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スコール視点な感じの話。最初はシリアスオチにする予定は無かった。最近屍鬼やらDグレやらダーク系ばっかり読んでた影響か?うーん。
雰囲気9→8っぽいですがまだ友情止まりだと言い張る。レディには優しく、がジタンの信条ですから。
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