絶望すら愛しいのだから
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腐臭の漂う戦場の跡地をただ一人、歩く。時折ぐちゃり、音が立つ。

「………」

黒曜石の瞳が周囲を見回す。屍肉を喰らう魔物が数体。以外には、生きている者はいない。−今日はもう、殺す必要は無い。

血脂のべったり付着して、最早使い物にならない剣を一振り、消滅させる。頬について乾いた血液を無理矢理拭う。手袋に移ったそれはもうとれそうに無くて、面倒だから手袋自体を外して捨てた。

膠着状態に陥った戦争は終わりを見せることも無く、この先永遠と続くのではないか、時折そう考えてしまう。

彼ら精霊と足元に転がる人間の争いは、彼の記憶する限りでは数年前から続いている。最初こそ力の上回る精霊が優勢だったものの、次第に数と技術に優れる人間に押され始め、今の泥沼状態に至るわけだ。

彼−ブルースは戦争初期から生き残っている数少ない存在の内一人だ。それはつまり、誰よりも人間を殺しているということ。

別に人間が何人死のうが気にはしない。ただ、殺し続けることに疲れ始めた。それだけ。

(…何時までやれば良いんだ?)

こんな下らないこと。早く終わらせて、……眠りたい。何よりもそれが望み。だが、現実はそんなことを許さない。

戦いが終わりを見せる様子は皆無であり、従って彼はこの先も何かを殺し続けるのだ。下らない理由から始まった戦いの勝利を得る為に。

辺りを見回す。荒廃した大地、転がる死体、漂う腐臭、乾いた血液。

見慣れた光景だ。最早何も思わない自分は感情が麻痺してしまったに違いない。

(…もう、疲れた)

眠りたい。何もかもを捨て去って。

ずるり、音がする。振り返る。死体。否。まだ息のある、生者。

「……手間を、かけさせるな…」

こんなに疲れてるのに。

新たに創成した片手剣を一閃。それで呆気なく片が付いた。ゴトリ、首の落ちる音が遠く聞こえる。

これで何人殺しただろう。数えてはいない。キリが無いからだ。

生暖かい風が吹く。彼の長い、白銀の髪が舞い上がる。濁った戦場には、不釣り合いに輝く。

「……いや、綺麗なのは…」

髪だけだ。この心は戦場と同じ、暗く暗く濁って停滞しているのだろう。

心中に深く沈澱しているモノは恐らく、「絶望」とかいうやつだろう。そしてそれが有るから、自分は敵に対して剣を振れる。

疲れた。もう眠りたい。だから殺す。

自分が更に殺せば、早くに終わる筈。こんな下らない戦−



そして白銀の剣の精霊はまた、人間を大量に殺す。全てを終わらせる為に−



11/01/16
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ブルさんの過去でした。彼の欝期です(苦笑)。大戦中は一部以外はこんな人ばっかりですが。本当はエックスとゼロも絡ませるつもりでしたが止めました(だってもっと暗くなりそうな気がしたんだもん)。
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