然れど愛の子守唄
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「ねえ、ロックマン。…ロックマーン?」
玩具が散らばる狭い部屋の中心で、小さな少女が誰かを呼んでいる。
『なぁに、熱斗君?」
ほんのり笑いながら現れた己の契約精の姿を見て、熱斗は少し安心したようだった。
「どこ行ってたんだよぉ」
「……ずっとこの部屋に居てたけど。精霊石の姿で」
「なんだ。黙ってどっかに行っちゃったのかと思ったよ…」
「あはは。そんなことしないよ」
僕は君の傍に居る為に此処に来たんだから。心の中で付け加える。
三年前、彼女が六歳になった日に、ロックマンは突如この部屋に現れた。空間を司る物質の精霊王セレナードの力を借りて、天上界の宮殿ヴァルハラを覆う結界を透過し、この狭い狭い封印部屋に閉じ込められていた彼女の前に降り立ったのだ。
勿論、熱斗は突然の訪問者に驚いた。両親と引き剥がされた彼女はこの先永遠に独りぼっちでこんな所に閉じ込められるんだと思っていたから。
そんな二人が契約を交わしたのはある種自然のことで、それから熱斗は独りではなくなった。ずっとずっと、傍にロックマンが居てくれるから…
「ねえロックマン。オレさあ、いつになったらこっから出られると思う?」
「……」
「オレ、ずっとこんなとこに居てるのなんかヤダよ。"外"に出て、色んなものをたくさん見るんだ!」
それが熱斗の願い。周りの思惑とは相反する願い。
(……)
少女の内包する力は自身が思っているよりも遥かに強大で、故に周囲は手放したくないということにロックマンは薄々ながら感づいている。警備がいっそ無駄な程と思える程厳重なのもそれが理由だろう。
(……私欲に過ぎないのに…)
自分の望みの為に、目の前の少女を利用し尽くすのだろうか。
−それは、嫌だ!
僕は何の為に此処まで来た?熱斗の傍にいる為だ、願いを叶える為だ。
「……ロックマン?」
「あ……、大丈夫、何でも無いよ」
結局熱斗には曖昧に返す。代わりに一つ、歌い始める。子守歌。
「……ロック、マン…?」
とろとろ、熱斗の瞼が降り始める。睡眠誘導の呪歌なのだから、当然の結果。
眠りに落ちた主の頭を優しく撫でる。
(そう、全ては君が目覚めてから…)
そして、自由を得られる道を探そう。
主の傍近くに控える契約精。その役目は、主の為に有ること、だから…
11/01/07
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幼い頃の青組。とても久しぶりに青組を書いた気がする…。子守歌は結構無理矢理絡めました。
この後彼らは脱出を企てて失敗しまくる訳です(え)