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ルイは考えていた。
(……さっきの事を考慮するなら…)
このラグラージも、こちらの想像につかぬ技を覚えているかもしれない。
技を放ち続けるにも限度がある。先程のようにPP切れを起こす可能性は低くは無い。
「チルタリス、一旦引け!それから再アタックだ!」
主の命には忠実であるらしい。"りゅうのはどう"が止む。距離を離す為、チルタリスが羽ばたく。
羽毛が散る。フィールドに、メタトロンの頭上に。
「今だ、メタトロン!−"ミラーコート"!」
『合点承知!』
叫びと共に現れた薄い銀幕。収束した、カウンターの為の光。
『くらいなっ!!』
裂帛の気合いが込められた渾身の一撃。かなりのダメージを与えられた直後の当て身技は相当の威力を誇る。
『そ、そんなの有り!?』
初めて、チルタリスが口を開く。♀らしい。構ってやる程優しくは無いが。
凄まじい輝きを放つ銀の光は青い体に直撃した。いかにチルタリス族の耐久が高くとも、当て身技の大半は防御を貫通するものが多い。"ミラーコート"も例外ではない。
「チルタリス、戦闘不能!」
明らかにヘロヘロのチルタリスを見た審判が赤旗を上げた。
「…やってくれるね」
地に落ちたチルタリスを労りながらボールに戻したルイの瞳には闘志。完全に火が着いている。
「…そっちこそ」
メタトロンもかなり疲弊している。己の体力を削らなければならない当て身作戦はリスクが高いのだ。隙を作らせる為とは言え、かなり無茶のある策を取ってしまった自覚は有る。
試合ルールは入替式に加え、本来のチャンピオンの手持ち数に合わせ、3on3。ルイは残り一体、ユウキも実質的には残り一体のようなもの。互いに後が無い。出せるモノはただ一つ、全力のみ。
「行け、ジュカイン!」
勇ましい掛け声と同時に、密林ポケモン、ジュカインがフィールドに現れる。ホウエン地方に置ける初心者用ポケモンの一体として配られる森蜥蜴ポケモン、キモリの最終進化形だ。ぱっと見、ヒスイのアーノルドよりも鍛えられているように思えた。
草タイプの攻撃を苦手とする水、地面タイプの上、スピードでもかなり劣るラグラージ族ではまともに相手に出来るとは考えられない。念の為に覚えさせていた"ゆきなだれ"を使うにしても、体力を消耗し過ぎている。
「……お疲れ様、メタトロン。もう良いよ、ゆっくりお休み」
冷静に分析を終えたユウキは、まだまだやる気自体は有るメタトロンをボールに戻す。途端、彼を入れたボールがガタガタ揺れ出したことは気にしない。
「頼むよ、ミカエル!」
ユウキの右手から放たれたボールから、ドラゴンポケモンのボーマンダ、愛称ミカエルが威嚇の咆哮と共に猛々しく登場。元々バトル畑ではないユウキの手持ちの中でも、数少ない武闘派の双璧を担う彼のやる気は当然のように高い。
フィールドで睨み合うミカエルとジュカイン。二匹同様、ユウキとルイもまた、お互い仕掛けるタイミングを見計らっていた。
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