後悔だけはしないと誓おう
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
神鳥(シムルグ)−知恵と治癒を司る美しき妖鳥。妖(あやかし)に属する存在でありながら人の情けを知る稀有なる者達。その誇りは高く、真に助けを必要とする者の前にのみ現れる。
今一度己の前に現れた緑の神鳥は、紅い瞳でじっと、品定めでもするかの如くこちらの顔面を見詰め続けている。
『…何の用だ?』
自然と滑り出た神代語で問い掛ける。意識はしていないが別に構いはしない。何せ、彼女は神代語しか話せないし通じない。
『………お前達や外に、興味を持ってな』
目の前にいた長大な鳥は何時の間にか、人間の娘と変わらぬ姿になっている。形の整った唇から漏れるものは綺麗な声だ。同時に不思議な感覚を抱かせる。男とも女ともつかぬ中性的な声。
『私は外を知らない。知っていたのかもしれないが、忘れてしまった』
『それは前にも聞いた。…最も、俺以外には分からんかっただろうがな』
そしてこの場には、自分とお前以外には存在しない。
木漏れ日の射す森の中。彼女達神鳥が奥深くに隠れ住む森の中。森の眷属以外は誰も興味を抱かぬ森の中。
青年−ライカとて、予感がしたから来たに過ぎぬ。そうでなければこんな場所になど行く訳も無い。汚れた血を引く自分には、この森の空気は清らか過ぎる。
僅かな表情の変化に気付いたのだろうか。瞬く以外には微動だにしなかった深紅の瞳が微かに揺らぎ、次いで彼女は予測もつかなかった行動に出た。
刹那の間に翼となった彼女の右腕が、いい子いい子とでも言うかの如く、こっちの頭を撫でてきやがったのである。
『何のつもりだ……!』
ギリ、と睨みつけてくる水晶の瞳に、深紅の瞳は至って不思議そうだった。
『子供が淋しがってる時に、人間の母親はこうするのだろう?』
『なっ、こど…っ…』
子供扱いされたのに腹を立て、それ以上に思う。
淋しそう?自分が?
どうしてそんな風に思ったのか。問い詰めてやりたい。
『……今の様に、……』
『は?』
『…いや』
ふと、呟き。あまりに小さな声で、人よりは耳が良い自分ですら聞き取れない。
再び、深紅の瞳を覗き込む。
(…淋しい?)
『一人は、淋しい……』
『………』
少し前、彼女が暴れ回っていたのを止めた時。後に己の下に、森の神が直々に訪ねて来て、知らされたことがある。
彼女はずっとずっと昔から、ただ一人で眠りについていたのだという。理由までは教えてもらってはいないが、それはそれは淋しげだったから、彼は少し哀れんで、それで度々見守り続けて。
何も覚えていない、緑の神鳥。痛みに苦しんで暴れ狂っていた。
『一人は、嫌か?』
尋ねる、男女の区別のつかぬ声。
それはお前の方ではないのか、そうは言わず、ライカは別の言の葉を紡ぐ。
『…好きでは無いな』
『そうか』
女の姿が掻き消える。陽炎のように揺らめきながら、碧翠の神鳥が現れる。
『私は、もう一人は嫌だ。さりとて、適当な相手と契約するのも御免被りたい』
『…で、俺というわけか?』
『そういうことだな』
−忌み嫌われる混血児を自ら主にしたいと望む神鳥。
(ああ、伝説ではこうあったか…)
美しき碧翠の神鳥と力強い濃藍の飛竜を率い、世界を救ったと言う亜麻色の瞳の乙女。
現代の乙女は濃藍の飛竜を従えた。
(悪くは無いな)
この程度で世界の認識を変えられるとは思わないが、波紋ぐらいなら作れるかもしれない。
言葉を待ち続けている深紅の瞳に向き合う。
『散々こき使うかもしれんぞ。構わないか?』
『別に。…後悔はしないと誓ったからな』
『何に?』
少し、悪戯心が湧いて来て、聞いた。
『森に、さ』
そして。
美しい碧翠の神鳥を引き連れて。混血の賢者は、誰も終わりを知らぬ戦いに身を投じる。
10/12/27
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
久々にFE的パロ。FEというかただのファンタジーパロになってるけど気にしない。
緑組ですね。緑組好きすぎて緑組しか書いてない。青組も出したいなあそろそろ