ゆきうさぎ ふたつ
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今はもう戻れる筈も無い故国では、雪はそう珍しいものではなかった。だがしかし、周りの家家を飾るイルミネーションやオーナメントは何なのだろうか。分からない。

ニホン各地を転々と巡ること数ヶ月。結局は一番最初、秋原町に戻っていた。次は何処へ行こうか。考えながら、ラグは歩む。

『そういやさ、ラグ。今日はクリスマスなんだってよ』

「クリスマス?」

『ああ。サンタの爺さんが良い子達にプレゼントを贈るっていう日』

「……ああ、ジェット・マロースのことか」

『シャーロじゃ、な。…ま、サンタ的「良い子」の基準が何なのかは知らねえけどさ』

肩に現れたホログラムの少年ナビは意味深に笑う。

良い子。曖昧な言葉。…どんな基準でそれが決められていようが、どんな理由が有ろうが、双子の弟を陥れようとした自分が「良い子」の訳が無い。そもそも、胡散臭い存在を信じる程幼くは無い。

ファーのふんだんについたフードを目深に被り、ラグはトボトボ歩く。そろそろ泊まれる場所を探した方が良いだろう。アルトに検索を頼む。彼の最後の弟よりは劣るものの、そこら辺のノーマルナビに比べれば、アルトの検索能力は非常に高い。

『んー…。この辺は普通の住宅街だからなあ。デンサンタウンまで出向かないと泊まれそうな場所なんて無いぜ?』

「そうか」

クリスマスムードの街の一角を振り返り、僅かながらに込み上げてきた寂しさを押し殺し、駅へ戻ろうとした、その時。

「……兄さん?」

己のものとはやや高低が異なる、…声。

驚きながら再び振り返る。自分と同じ顔、背丈の少年がそこにはいた。

「ライカ!?…どうしてニホンに…」

「……兄さんもよく知ってる馬鹿に絶対来い、と呼ばれてな」

「馬鹿とはなんだよ、馬鹿って!」

突然現れた、これまた元気に怒る闖入者。光熱斗だ、間違いない。忘れる筈も無い、あの事件で自分が騙した少年。

「久しぶりだな、ラグ!ヒノケンのとこに居てたんじゃないのかよ?」

「……二ヶ月ぐらい前に出て行った。今はニホン中を回っているんだ」

故国に戻る訳にはいかないが、一定の場所に留まる訳にもいかない。ずっとずっと、様々な場所を移動して回る。ほとぼりが冷めるまで。

「要するに、兄さんは今根無し草なんだな」

「……ああ」

至ってストレートに言われた。大して気にはしないが、やはり自分達は双子なのだとぼんやり思う。

「そうだ!だったら俺ん家来ないか!?今ママがスッゴく美味しいケーキ作ってるんだ!それに、一人ぐらいだったら泊められるだろうし。うん、それが良いな、決定!」

「はあ!?何を言ってるんだ、ひか…」

「ほら、行こうぜ!」

いたく強引な熱斗にぐいぐい引っ張られて、ラグは抵抗も出来ない。表情も満更ではなさそうなので、言葉程嫌がってはいないのだろう。

雪の街を一方は引きずって、一方は引きずられる。そんな友人と兄を、ライカは苦笑しながら追い掛ける。

『そういえば、ライカ君』

「何だ、ロックマン」

突如肩に現れた青いナビのホログラムには大して驚かず、平然と同じ抑揚で尋ねる。

『ゆきうさぎって知ってる?』

「…知らん。何だ、それは」

『まんま、雪で作った兎なんだけどね。こんな感じの』

更に現れたグラフィック。雪で出来た楕円形の体、南天の実が二つ、これは目なのだろう。更には耳の如くさされた、これまた南天の葉。

『可愛いでしょ?』

「…そう思わなくも無いが。いきなり、何を……」

『いやいや。…二匹揃えたら、君とラグ君みたいだな、ってふと思っただけだよ』

色んな意味でね。言葉にはされなかった続く台詞。

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

『ふふっ。……良い度胸だね?』

翠玉の瞳を楽しそうに細めながら。水晶の瞳を鋭く細めながら。黒々とした応酬。

(ああでも、今日ぐらいはここまでで良いかな)

何たって、聖なる日だからね?

うっすら積もった真白の雪に、幾つもの足跡がついて。新たな雪が被さり、消えていった。



(寄り添う姿はキミとボク)


10/12/24
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まるでこれではロックマンとライカがペアのようだ。緑双子の筈だったんだけど。普通に青組で良かったかも。
クリスマスっぽくなくてもクリスマスだと言い張る。この三人にかかればケーキ一ホールなんて直ぐに無くなるな!
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