思い煩いしちっぽけな生命
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「はぁあぁ……」
『ね、熱斗君…』
人で賑わうデンサンタウンの一角の路上を、熱斗はトボトボと歩いていた。
珍しく任務は入らず、今日はフリー。だがライカ達は別で、何故かディンゴやジャスミンもいない。
「暇…」
そうだ、Maha壱番'に行こう。そんでMahaスペシャル食うんだ。やけ食いとか言うなよ。
決めた熱斗は進路を変更。Maha壱番'のある通りに入る為、横道に向かおうとし。
「あっ…」
見覚えのある影を見付ける。薄紫の外套を纏い、顔を隠している青年。
「おーい、ラグーっ!」
威勢の良い声に、青年は振り向く。外套の頭部だけを外したラグの表情は驚愕で染まっていた。
「光」
「久しぶりじゃん。何してたの?」
「別に…、仕事帰りだ」
「占いの帰り、って…」
『この国のお偉いさんに依頼されたんだよ』
アルトの高い声が脳裏に響く。納得した熱斗は、ラグがじっと顔を見詰めていることに気付き、慌てた。
「な、何だよ〜…。そんなに見詰められたら困るって」
「…」
ふ、と目を逸らしたラグはぼそぼそ、ライカにそっくりな声で告げる。
「……お前に災厄の相が出ていたから気になったんだ」
「え、マジ?」
ラグの占いはかなり当たる、というか当たらない時の方が滅多に無い。
基本的に占いの類を余り信じていない熱斗だが、彼のそれに関してだけは別だった。実際、何度か救われたことも有る。
「災厄って……何なんだよ」
「そこまでは分からん。近い内に降り懸かる、というのは確かだが」
「え……。やだなあ、折角久しぶりの休暇なのに」
本当はライカとデートか何かしたかったんだぜ。
そう告げた途端、ラグの表情は曇った。ライカが落ち込んでいる時とそっくり同じ顔。
「……いや、…」
薄氷の瞳を逸らしたまま、占い師の言葉は濁る。
中途半端な態度に、好奇心の強い熱斗が追求しない筈も無い。
「どうしたんだよ、急に。お前らしくも無い」
いつもだったら先程までのようにズバスバ言いまくるクセに。
「……元は同じでも、別人は別人でしかない、ということか…」
「は?当たり前だろ…」
そんなこと、と続けようとして止めた。
ラグは元々、ライカの代替品として作り出された存在だ。ネビュラの思惑そのままに育てば、今頃熱斗達を撹乱する為の捨て駒として扱われていたであろう。そうならなかったのは、アルトが徹底的に、彼個人の意志や考えを持つように教育したからである。
…それでも、彼等は似ていた。目の前の、「本物」を求める少女の欲求を代わりに満たしてやれるんじゃないか、と当人が思ってしまう程には。
「…良いんだ、別に。俺にしか出来ないことも有るには有るからな」
「……占い、とか?」
「ああ。……現実主義の兄さんには出来んこと、だろう?」
「…確かに、そうかも」
ライカが占いを信じるようになったら……、うん、天変地異の兆しになってしまうかも。
思わず、笑う。
「そうだ、お前も一緒にMaha行かないか?今からカレー食いに行くんだけど」
「……いや、遠慮しておく。カードに匂いがついたら困る」
何せ、大事な商売道具だ。
引きずり込むことに失敗した熱斗は溜め息をつく。本格的に、今日はロックマンと二人ぼっちの予感。
『………なあ、光』
「何?」
『………いんや、何でもねえ』
鈍い足取りで元犯罪者達のカレー屋へ向かおうとした天使セイバーを呼び止めたアルトの声には、僅かなもどかしさが宿っていた。が、熱斗の方は全然気付かなかったらしく、首を傾げている。しかし、結局はそのまま去っていった。
自分も早く、セイバー本部に戻ろう。でないと、あの女警視が色々煩い。
カツカツ、ブーツの靴音を立てながら、己の契約精に問う。
「アルト、どうしたんだ。誰かを呼び止めるなど、お前にしては珍しい」
『良いじゃん、別に。…ちょっと気になること有ったからさ、確認しようと思ったんだけど。……止めたよ』
「………」
アルトの本心を追及するのは面倒臭い。そんな結論をさっさと下したラグはふと足を止める。「太陽」の少女が去った路地の入口を振り返る。カラコロ、ジュースの空き缶が転がる音。
先程自分が見た、災厄の相を思い出す。
(……光…)
自分で時折不安になるぐらい当たる占い。少しは外れれば良いのに。
思いながらラグは、淡い蒼の尾を引く彗星をぼんやり見上げた。
10/12/21
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
誰かの代替品として作り出された自分の生に悩むラグと彼のことを決して恋人の代替品とは見ていない熱斗。あんまりちゃんと書けなかった…。
熱斗は色んな意味で太陽です。でもタロットだとまた違うイメージ(世界とかの気がする)