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怒り心頭だったルナを何とかごまかしきったスバルは再び帰途に戻り、終着点であるセイバー本部玄関口の自動扉を抜けた。

「お帰りー、スバル」

「あ………、…ただいま…」

ひょっこり現れたアクセルに声をかけられ、内心動揺しながらもスバルは答える。−この二百年の内に、「お帰り」なんて言われたことは無い。

スバルの心の揺れに気付かないアクセルはだがしかし、別のモノには気付いたようだった。

「どうかしたの?何か、顔色悪いけど」

「……え……」

指摘されるとは思っていなかった。

数瞬悩んだスバルは意を決し、帰途での出来事を事細かに話す。

「…ふーん。そりゃ大変だったね」

「うん…」

「じゃ、そういう訳で。僕射撃場行ってくるから」

「えぇぇええ!?どういう展開でそうなるの!!?」

「僕なりの展開ってことで!」

「そ、そんな無茶苦茶な−って早!」

流石は自由奔放、と言うより興味の移り変わりの早い子供である。アクセルは既に、スバルの前から姿を消していた。

話す相手を間違えた−思いながら、少女はトボトボ会議室(という名の待機室)へと向かう。

「あーあ…」

『……完全にミスったな、スバル』

「…うん…」

「何を、だ?」

「アクセル君に帰りでのこと話したの……って、え?」

ガバリ、顔を上げる。目の前で佇むのは男装の少女、炎山。両手で幾枚かの紙切れ(恐らくは資料なのだろう)を持っている。

死神としての性質なのかは知らないが、炎山は気配を消すのが得意だ。全く別のことに意識を向けていたこともあるが、それでも気付かせなかったのは流石である。…ただ、敵に狙われることもない本部で気配を消す意味は謎だが。

「炎山君…」

「何かあったのか?」

「……うん」

小さく頷いたスバルは、本日二度目となる帰途時での出来事の説明をした。

黙って聞いていた炎山は溜め息をつき、懐から取り出したアクアマリンを垂直に投げ上げる。

『お呼びでしょうか、炎山様」

顕現した剣の精霊ブルースに、炎山は手持ちの紙切れの束を突き付けた。

「真鍋警視に渡して来てくれ」

「…了解しました」

恭しく答えたブルースは渡された紙切れ(やはり資料なのだろう)を何処からともなく取り出した封筒に入れ、炎山に一礼してから身を翻し、歩き出す。

別に今、このタイミングでなくても良いんじゃないだろうか。こっちはとっても真剣なのに、やっぱり炎山君は仕事人間だ−そんな失礼なことを思う。

と、炎山はいきなり、その白い手をスバルの肩に乗せた。

「…この後は展望台に行くんだろう?」

「そうだけど…」

見上げた端正な顔は、微かな笑みを浮かべている。

「今日は働き詰めだったからな。息抜きがしたいんだ」

「え、じゃあさっきの…」

「資料か?…任務に関わるような物を持って行っては、息抜きにならんだろう?」

ブルースなら俺の気配を追えるしな。炎山はそう続けて笑う。

つられてスバルもまた笑う。

「部屋にリュックを置いてくる。それから行こう」

「ああ。…それぐらいなら待とう」



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