共に君とこの青空のしたで
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初めて見る本物の空は、青く青く広がっていた。

「キレイだ……。"外"ってすごいな」

「だろ?」

ひたすら、ひたすら走り続けて。『奴ら』の干渉出来ない"外"まで少年−ナナシを連れ出した精霊−アルトはニカッと笑う。眩しい。

「お前も俺も、もう自由だ。ネビュラなんかに従う必要なんて無くなったんだ」

「そうだな。…これからどうしよう」

無条件に衣食住が与えられる、引き換えにいつか必ず誰かを殺すように要求される居場所を、彼等は自ら捨てた。

自由、そう自由だ。だからこそ、どうしたら良いんだろう。

不安を現わにしたナナシに、アルトはやはり笑ったまま、言う。

「そうだなあ……。じゃあ、遊ぼうぜ」

「…"遊ぶ"?」

「そう」

くるり、身を翻す。肩程までの灰色に近い銀髪とブラスターを納めたホルスターが揺れる。

「色んな場所に行って、色んな物を見て、そんでいーっぱい遊ぼう。絶対楽しいからな」

甘美な誘いに、しかしナナシは不安げな表情を崩さない。

「……良いんだろうか…」

「良いに決まってんだろ!」

笑顔から一転、真剣な表情になったアルトは目の前の、青年の姿をした幼子の肩をがっしり掴む。

夕焼け色の瞳は真摯な光を宿して、薄氷の瞳を真っ直ぐに見詰めた。

「お前はずっと監視されて、自分のしたいことが出来ずにいたんだから。でも今は違う、あいつらはもうお前を好き勝手に使えない。自分の思う、好きなことをしても良いんだよ、お前は」

「………そう、か?」

「そうに決まってるだろ!」

もう一度強く、念を押されてようやくナナシは微笑んだ。

ネビュラという組織はまだ造られて一年しか経たない少年の心に暗い暗い影を落としていて、これをどうするかが目下の悩みになるかもしれない、とアルトは内心で考える。難しいことを考えるのは好きでは無いが、ナナシの将来を左右することだ、放ってはおけない。

しかし、それは一先ず置いといて。取り敢えず一端は此処から一番近い街にでも行くか。そう決めたアルトがナナシを促そうとした時、

「………したいことは、ある」

ナナシはポツリと呟いた。

「何だよ?」

「………」

沈黙の後の台詞は、アルトを驚愕させるに十分に足るものだった。



「オレは………《本物》に会ってみたい」



「……お前、何言ってんのか、分かってる、よな?」

「ああ。…お前が反対するのは分かってる、でも、オレは…」

どうしても、《本物》の吸血鬼に会いたい。会って話をしてみたい。

「オレが《偽物》として造り出されたのは、《本物》がいるから、だろ?」

「あー…、まあ、そうっちゃそうだけど」

生返事のアルトに、ラグは真剣に言葉を重ねる。

「オレ、《本物》に会ったらな、……《偽物》じゃない、オレ自身になれる気がするんだ。…勘だけど」

そう、何と無くに過ぎないけれど。

少し照れたように笑いながら言う少年に毒気を抜かれたアルトは深々と溜め息をついた。

「……まあ、好きなことやっていいって言ったのはこっちだしな…。ま、それはニホンに行ってからな」

「ニホン?」

「ああ。こっからずっと遠くにある島国だ。吸血鬼は今そこにいるらしい」

「本当か!?」

「…行く前に金貯める必要はあるけど、ま、何とかなるだろ!金目の物は少しちょろまかして来たし」

「"ちょろまかす"?」

「あーー………。…盗みだよ、ぬ・す・み!」

「盗むのは悪いことなんじゃないのか?」

「……お前の言う通りだよ、うん」

純粋な子供にすっぱり言われ、アルトは思わず目を逸らす。次からは出来るだけ止めよう。犯罪やっぱり良くない、うん。

「……ま、それはそれとしてだな。そろそろ行くか、適当に」

「そうだな、アルト」

草原から一歩を踏み出す二人を、青い空はゆったりと見守っていた。



10/12/07
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ナナシとアルト。互いに互いを振り回すコンビ。別名行き当たりばったりコンビ(苦笑)。場所はアメロッパのどっかです(アバウト)。アルトの台詞に「ま」とか「まあ」が多いのは口癖です。
黒幕っぽい匂い漂わせてるネビュラの本格的登場はまだ。早く出したいなぁ

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