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「スバル君っ!」
小学校からの帰途、少女セイバー(他人には秘密)の背に、高い声がぶつけられる。
嫌々ながらも振り返ると、そこには予想通り、薄い金髪を二本の特大縦ロールに仕立て上げ、やや釣り目がちな抹茶色の瞳に某かの感情を漲らせた少女。
「……何?」
「何?じゃないわよ!!」
少女−白金ルナの高い声は耳に響き過ぎる。耳を塞ぐかどうか考え始めたスバルに語りかける囁き声。
『(どーすんだ、スバル。追っ払うか?)』
「(…そこまではしなくて良いよ)」
やはり囁きで返した少女は、実に冷たい金の瞳でじとり、同級生の少女を睨む。
それに気付いているのかいないのか−恐らくは後者−、ルナは憤然と言いたいことを言いまくった。
「あなたねえ、周りと関わらなすぎなのよ!黙って来たと思ったらずーっと席に座りっぱなしだし、給食も一人で食べてるし、下校の時だっていつの間にかいなくなってるし!!」
「……それが何?」
ルナの言うことは全て事実である。敢えて一人きりを選んでいるのは確かだ。
そして他人に指摘されようが、スバルに変えるつもりは皆無。−半分は人間の血が混じっていようと、もう半分は全て妖魔の血。うっかりバレては困るのだ、どちらにとっても。
だがしかし、目の前の少女はそんなことを理解する気は全く無いようだった。
「困るのよっ!!私が!」
「……何で君が困る必要が有るの」
ローテンションのスバルの態度がカンに障るのか、ルナのボルテージはどんどん上昇していく。
「…いいかしら、スバル君。私は貴女のクラスの委員長なの。委員長の務めはクラスの調和を守ること。一人でも孤立している子がいたら私は義務を果たせないわ!」
「……そう」
取り付くしまもない。
怒りゲージMAXに達したルナがいよいよ問い詰めようと足を踏み出した時。
ずぅぅん…
「な、何!?」
「……」
何処からか響く重い音。少しずつ、近付いて来る。
「…委員長」
「な、何よ…」
「何処かに隠れてて!」
先程までの鬱オーラは何処へやら、真剣な表情でルナに言うと、スバルは音の響く方向へ走り出す。
「ち、ちょっとスバル君!?」
困惑したルナに振り向いたスバルは言い切った。
「−大丈夫だから!」
それだけ言って、スバルは駆ける。
取り残されたルナは呆然としたまま、彼女を見送った。
『おい、スバル。あの女追い掛けて来てもおかしくねぇぞ?』
「…それは困るけど……。そうなったらロックが守ってよ」
『……俺にんな器用なマネ出来ると思ってんのか?』
「努力ぐらいはして」
『…りょーかい』
呑気な会話とは裏腹にどんどん張り詰めて行く空気。
立ち止まったスバルの前に立ち塞がるは、巨大なジャミンガー。人間や妖魔、精霊の法力、魔力のカスがいびつに結び付いた存在。
『おっ、やり甲斐ありそうじゃねーか!」
先程までの倦怠感を吹き飛ばしたらしいウォーロックが顕現する。スバルも刃弩を具現化し、左腕に装着した。
油断無くジャミンガーを睨む二人。対し、ジャミンガーは二人を見付けるや否や、右腕をバルカンにコンバートした。
果断無く放たれる弾丸の嵐を、スバルは結界を張って受け止め、ウォーロックは隙間をかい潜り巨大な図体との距離を縮めて行く。
「はっ、腹ががら空きだぜ!」
あっさり密接距離(クロスレンジ)まで距離を詰めた獅子の精霊は叫びながら跳躍し、勢いのまま強烈なニーキックをどてっ腹に叩き込んだ!
ジャミンガーの体がくの字に折れる。弾丸が途切れる。その隙をスバルが見逃す筈も無い。
「メテオアース!」
高まった魔力が火を纏った小隕石となり、次々とジャミンガーに向かって降り注ぐ。
ジャミンガーの巨体を貫き、焼き尽くしていく小隕石は不思議と周りの家家には落ちない。スバルの魔術コントロール力は、同じく魔術を得意とするロックマンを上回る。何にせよ、容赦無い攻撃だ。
汚い悲鳴と共に、ジャミンガーの身体はボロボロと崩れていった。
自分の周囲を吹き荒れる魔力に顔をしかめながら、ウォーロックはふと気付く。
(……この魔力…)
「ロック、行こう。…委員長放って置いたら面倒だし…」
「……ああ、そうだな』
魔力の残滓を気にしながらも、ウォーロックはオパールに姿を戻し、ひっそり息を潜めた。
(……『ヤツら』が近くにいやがる、か…)
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