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主の指示と同時に、オニゴーリの周囲は氷点下に。どうやら、残された体力の全てを振り絞っているようだ。こんな状態で"れいとうビーム"を放たれたら等倍でもやられること必至。飛行タイプのサリエルなんてイチコロだが、今更更に離れろなんて指示出せない。
(……アレに賭けるしかない!)
判断を下したユウキは、サリエルに、せめて高度を上げるよう指示。と同時にオニゴーリの眼前にアイスブルーに輝く極低温の光が集まり、そして発射されなかった。
「………え?」
驚いているのはルイだけでなく、観客も、審判も実況も解説者も誰もかも。
ざわめきが広がる中、冷静な者が一人。−ユウキ。
「何だか悪い気もするけど、勝負は勝負。サリエル、決めるぞ!」
頷く代わりの、羽ばたき一つ。
「−"ねっぷう"!!」
苦しげなオニゴーリの方を向き、サリエルは幾度も羽ばたく。火の粉の混じる風が勢い良く彼に吹き付く。またしても直撃コース。
炎タイプのこの技、いくらくらう相手が氷タイプと言えども、毒、飛行タイプのサリエルが使い手では大した威力にはならない。だが、混乱による自傷と"クロスポイズン"による毒のダメージが嵩んでいたオニゴーリに対しては十二分過ぎる結果になったようで、彼はぽってりフィールドに転がってしまった。
「オニゴーリ、戦闘不能!」
我に帰ったらしい審判が赤旗を上げる。
「……やるじゃん、あんた。これはどういうカラクリ?」
相棒の一体を労るようにモンスターボールに戻しながら、ルイは尋ねる。油断していたのは確かだが、流石にこれだけ一方的では悔しい。
ハルカなら「自分で考えたら?」で切り捨てたろうが、ユウキは実に親切に答えた。
「さっき、君のオニゴーリは混乱して"れいとうビーム"を乱発してたよね?あれでPPが切れちゃったんだよ。それと"クロスポイズン"の毒」
先程ユウキが賭けたのは、この可能性。"クロスポイズン"を先に放ったのは毒を与えるためだけだった。本命は"ねっぷう"である。
「つい最近までは"さいみんじゅつ"だったんだけどね。意外だっただろ?」
「…ああ。全然予想してなかった。−俺もそろそろ本気出すべきだな」
僅かに笑いながらルイは二番手、ハミングポケモンのチルタリスを繰り出す。最近知り合った天然ポワポワ少女、コトネも所持している。見た目は可愛く主に女性トレーナーに人気のポケモンだ。
戦闘面ではなかなか状態異常に強い、耐久系。竜タイプなので"ねっぷう"にも強い。ここは相手の技だけ確認してサッサと交代するべきだろう。
素早く判断したユウキはサリエルに低空を飛行するよう指示を飛ばそうとして、
「"れいとうビーム"!」
−そんな予想つくわけも無い技名を聞いて固まってしまう。
(−っ、しまっ…)
油断していたサリエルもまた、そんな攻撃に驚いてしまい敢え無くヒット。しかも凍ってしまった。…ああ、耐久は無いんだうちのサリエル。
「クロバット、戦闘不能!」
ぴくりとも動かない(凍ってるから仕方ないんだけれども)サリエルの様子を見た審判は、次は白旗を上げた。
「……凄いね、君のチルタリス…」
「さっきのお返しだ」
どうやら根に持つ性質らしい。したり顔だが言い返しは到底不可能。
とにもかくにも、どちらも一体倒され状況はイーブン。どうしたものか。
(…こんなに早く出すことになるとは思ってなかったなあ…)
そんな風に考えながら、ユウキはボールを投げた。
フィールドに現れたのは沼魚ポケモンのラグラージ。ユウキにとっては初めて手中にしたポケモン(当時はまだミズゴロウだった)で、愛称はメタトロン。
「さ、いくよ、メタトロン」
『おうよ!』
当然ながら、ユウキの耳にはごああとかそんな風にしか聞こえない。構いやしないが。
どっしり地に四つ足を着けて構えるメタトロンと、宙を優雅に飛び回るチルタリス。飛べる分相手の方が多少は有利か。
「先手はもらっとく。−"りゅうのはどう"!」
旋回していたチルタリスは一転、急降下。紺色の衝撃波をメタトロンの顔面目掛けて放つ。
水中でならまだしも、地上ではラグラージ族は比較的鈍足の部類に入る。本人(ポケモン)もトレーナーもそれを分かっているのだろう、避けることなく正面から攻撃を受けた。
チルタリス族の特殊攻撃力の低さにラグラージ族の特殊防御力の高さも相まって、それ程ダメージは通らない。が、世の中には「塵も積もれば山となる」という言葉がある訳で。
「まだまだっ!」
連射される"りゅうのはどう"。
徐々に押されていくメタトロンを、ユウキはじっと見詰めていた。
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