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(なぁんでこうなったのかなあ)
トレーナーサークルの内側に立ちながら、ユウキはぼんやり考える。
向かい側に立つ挑戦者は深緑の髪を耳よりも僅か下ぐらいまでに切り揃えており、黒縁の眼鏡をかけている。鋭い光を宿す左の瞳は蒼。右は前髪で見えない。羽織るジャケットも蒼で、ナイロン製の長ズボンは黒い。
「僕はミシロタウンのユウキ。君は?」
「……ヒワマキシティのルイ。よろしく、"代理"チャンピオンさん」
明らかにナメられていることはスルー。確かに、バトルは得意じゃないけど。
思いながら、ユウキはゆっくり投げられたモンスターボールを見詰めた。
弧の頂点に達した所で発光、ボールが開く。現れたのは平均より一回りは大きい、顔面ポケモンのオニゴーリ。ザッと見た限りでは、相当鍛えられている様子。リーグに挑む以上は当然であろうが。
(…まあ、何とかなるかな)
少し考えたユウキもまた、ベルトからモンスターボールを一つ取り、投擲。
ボールから飛び出したのは、通常よりもやや小型の蝙蝠ポケモン、クロバット−サリエルだった。
「……あんた、本気なのか?」
「相性を覆すのもポケモンバトル…ってね。大丈夫だと思わなかったら出さないよ」
因みに前半部分は、イッシュ地方の少女チャンピオンの受け売りである。
両者の先発が出揃ったところで、審判のおじさんが「試合開始!」と叫ぶ。そして、間髪入れずに、
「オニゴーリ、"れいとうビーム"!」
ルイが指示を飛ばした。
(やっぱり、そう来るか)
クロバット族の素早さは並々でなく高い。その早さを発揮される前に、弱点技で打ち落とすつもりなのだろう。
「サリエル、かわせ!」
まともに喰らえばほぼ確実に戦闘不能−それは避けたい。
幸い、"れいとうビーム"は直線的な技。サリエルはひらり、右舷の方角に飛び、一発おだぶつを免れる。
「"あやしいひかり"!」
ユウキの指示とのタイムラグ、ほぼ無し。どうやらサリエルも同じことを考えていたようだ。付き合いが長いって良いよね。
紅い瞳から紫色の光。まともにそれを見てしまったオニゴーリは果たして、おかしな行動を取りはじめた。
やたらめったに"れいとうビーム"を撃ちまくり、ふらふら動き回ってはいきなりこけたり…
「…っ、混乱…!」
状況を把握したルイは、咄嗟にボールをかざす。混乱はボールにさえ戻せば直ぐに治る状態変化だ。一応指示をこなす可能性はあるが、彼は確実性を優先するタイプだった。
「戻れ、オニゴー…」
「させない!サリエル!!」
交換宣言を遮るユウキの声。無茶苦茶に放たれる技技を猛スピードでかい潜り、オニゴーリに近付いたサリエルの瞳が、一瞬黒く染まった。
直後、かざされたボールから赤い光が走り、オニゴーリに直撃。そのままボールに戻る、筈だった。
ボールは空っぽのまま、フィールドには今だに混乱しているオニゴーリと、余裕で飛び回るクロバット。
「………"くろいまなざし"か。ったく、面倒な技二つも覚えてるのか…」
嫌らしい補助技を多く覚えるクロバット族だ、さもありなんというか。
その場に縫い付けられたオニゴーリは、混乱していることもあって、完全に無防備だった。
「"クロスポイズン"!!」
サリエルが相手の背後に回り込んだのを見計らい、ユウキが今試合初めて、攻撃の指示を飛ばす。
瞬間、毒の滴り落ちる二枚の主翼が、オニゴーリの背(に当たるであろう箇所)をクロス状に切り裂いた。見事な直撃。
「オニゴーリ!」
ルイの焦った声。まさか、相性面でも鍛えぶりでも自分達が上回る相手に、ここまで一方的な展開を許すとは考えてもいなかったのだろう。
少し良心が痛んだユウキだが、戦いとは得てして非常なるもので、引き分けた時以外には必ず勝者と敗者が現れる。−ユウキは、敗者になるわけにはいかないのだ。だから珍しくも、容赦はしていない。
「サリエル、少しだけ離れて」
時間経過と主の声、そして傷の痛みにより正気に返ったオニゴーリから、漏れいづる凍気。クロバット族の機動力は翼が動いてこそ発揮される。離れるのは分かるが、何故少しだけなのだろうか。
ルイは考えたが、目の前の少年が何を思っているのかはサッパリ分からない。…まあ、技構成から見て、このクロバットは補助特化に育てられているようだから、"クロスポイズン"以外の攻撃は無いだろう。残り一つの技は"くろいきり"とか、その辺ぐらいで落ち着いている筈だ。
狙い撃つ位置としては最上。次の攻撃をくらう前に、今度こそ撃ち落とす。
「決めろ!−"れいとうビーム"!」
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