こぼれた心と最果ての歌−1
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目を閉じれば、何処からか『声』が聞こえてきた。

(……、違う…)

これは、『歌』だ。

哀しみと孤独に満ちた、虚しくて、でも美しい、そんな旋律−





「コンサート会場の警備?」

「ああ。俺とアクセル、それから光と伊集院の四人で、な」

喧騒から切り離された第三会議室−通称セイバー専用待機部屋−で。ゼロの艶やかな金糸の髪が揺れた。書類を机に、たたき付けるように置いた衝撃で。

ワープロ打ちによって作成された書類をめくっていた熱斗の瞳が、彼女の右隣に座って、同じく書類に目を通している炎山に向けられる。

「……なあ、炎山」

「…何だ、光」



「響ミソラ、って………、誰?」



…会議室中に、がくう、という鳴るはずも無い音が響いた、ような気がした。

「光、お前…」

「新聞やニュースをチェックしていないのか…?」

呆れたように言う炎山とゼロ。熱斗はあははは、と乾いた笑みを浮かべる。

「だって、新聞読んでると眠くなってくるし。ニュースもあんま興味無いし…」

「だからってさ、ゼロですら知ってること知らないのはまずくない?」

「……どういう意味だ、アクセル」

二重嫌味を聞き咎め、ゼロはジロリと発言者を睨みつけるが、アクセルは素知らぬ顔で口笛を吹くばかり。

こうなっては、追求は時間の無駄だ。そう判断したゼロは、自分…ではなく、前々前世ぐらいからの恋人であるエックスがまとめた資料を読み上げる。

「響ミソラ。年齢は11、性別は女。今を時めく大人気少女アイドル。支持層は同世代の少年少女を中心に、老若男女、人間妖魔精霊問わずで幅広し。普段は首都圏を中心に活動しているが、今回は本人の希望により、デンサンタウンでコンサートを開催するそうだ」

『へえ…。あ、だから最近人が多いんだね』

デンサンタウンはデンサンシティの中心地に当たる街だ。そして、セイバー本部もまたデンサンシティに拠を構えている。街の様子の変化はすぐに分かる。

「−で?何でそんな凄いアイドルのコンサートの警備をさ、俺達なんかに頼むんだよ。警備会社の人達に頼めばいいじゃん」

『…光、お前なあ…』

自分で「なんか」などと卑下するような言葉をつけてどうする。…確かに、一理が無い訳では無いが。

「…いや、警備会社の方にも頼んではいるようだ。俺達は念の為、と言ったところか」

芸能界という世界は、政治界とはまた違った魑魅魍魎の巣窟だ。ライバル達の足を引っ張ったり何て言うのは日常茶飯事だし、熱狂的なファンが暴走する時もあるし、…最悪、命が脅かされかねない。

セイバーは本来、精霊が関わる事件のみを対処する精鋭部隊だが、響ミソラはどうやら精霊にも人気があるようだし、やむを得ず、といったところだろうか。

「にしてもさあ、何でデンサンタウンでコンサート開くんだろ?集客力とかって、どう考えてもヤシブタウンとかの方が上だよね」

「さあ。大人数を相手するのに疲れたんじゃないか」

適当に言ったゼロはばらした資料を手早く元に纏めると、さっさと会議室を出て行ってしまった。

はあ、と溜息をつきながら、アクセルは背もたれに思いっ切り体重をかける。ギシギシ、とどこか不安を感じさせる音が鳴る。

「行っちゃったねえ、ゼロ。本格的な打ち合わせはまた今度、かな?」

「…みたいだな。んじゃ、俺もそろそろ帰ろっかな。炎山はどうする?」

「……俺はもう少し、此処に残る。…」

炎山の青玉の瞳は、資料の一枚目、右上の隅に貼られた、少女の笑った写真に向けられていた。

(響ミソラ、か……)



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