人並みの羞恥を持て
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「いいかい、ソロ君。スバル君は僕の恋人なんだからねっ!!」

「…ふん。言いたいことはそれだけか?」

一触即発。今の雰囲気を表す四字熟語はきっとそれだろう。

睨み合っているのは双葉ツカサとソロ。別名「スバルを好きすぎるコンビ」。二人が出会う時はすなわち、ゴングが高らかに鳴る時である。

「ツカサ君、ソロ……」

渦中の当人は困惑しながら二人を見る。大きな金の瞳は正直、泣き出しそうに揺らいでいるが、ツカサとソロは一向に気付きそうにない。



最初にセイバー本部を訪れたのはソロだった。目的は勿論スバルに会うこと。

ソロという少年は孤高の存在で、誰かと馴れ合うなど間違いなくしないが、スバルに対してはどうやら、特別な感情を抱いているようで…まあ、何だかんだでセイバー本部の常連の一人になってしまっている。賢明なる周囲が、敢えて何も言わないだけで。

そして、何をしていくのかというと。

「いいか、星河スバル」

「……」

「俺は貴様に取り込まれたムーの遺産を取り返したいだけであって、断じて貴様自身を目当てにセイバー本部に来てやっている訳ではないからな!!」

「う、うん…?」

詰め寄るソロ、たじろぐスバル。ほぼ毎日見る光景。

「…なあ、サーチ。これ、何回目?」

『……356回目だ』

『…それって…後何回かで丸一年その為だけに本部に通ってる、ってことになるよね…』

何と言う暇じ…げふげふ、執念だろうか。ソロに常に付き従っているラプラスも、そろそろウンザリし始めているようで、表情が少し変わっている。

しかも、最悪のタイミングで彼−双葉ツカサがやって来た。

「スバル君!差し入れ持って来−」

笑顔(対スバル専用)が凍る。サンドイッチやカップラーメンが大量に入ったビニール袋が滑り落ちる。

…彼の愛しき少女は、憎き恋敵に胸倉を掴まれていた…。

「……スバル君を離せ下衆野郎…!」

言うなり、計8本の細い銀針をソロのツボ目掛けて飛ばす。怒り狂っていてもコントロール抜群だ。

そんな殺意を込められた針を、ソロは手の平から一瞬気を放ち叩き落とす。

「挨拶はここまで、か?」

「…まあね」

そして、冒頭に至る訳だが。



スバルを(勝手に)取り合っている二人の喧嘩は、傍観している三人−熱斗、ロックマン、サーチとしてはいい迷惑なだけで。

『…早く帰ってくれないかなあ、あの二人…』

…ロックマンのそんなぼやきには、何やら切実な思いが込められていた。

『せめて外でしてほしいものだ』

「だよなあ…」

そんな風に会話しながら、スバルの助けを求める視線を封殺しているのだから、彼等もたいがい非情である。

「ねえ、ツカサ君、ソロ…」

「スバル君!」
「星河!」

「ひぃっ!?」

いきなり名前を呼ばれて、スバルは震え上がる。…くわっと見開かれた瞳で迫られては、そうなるのも仕方ないかもしれない。

「僕の方が君のことよく知ってるよね!?」

「…え?」

「…ふん。何だかんだで俺との方が付き合いは長いだろう」

「え、えーっと…」

何の話。

二人の勢いやら質問という名の確認の意味が分からず、スバルは当惑するばかり。もう本当に泣きたい。

「僕はねえ、ソロ君。スバル君が昨日食べた三食も知ってるし、お風呂に入った時間も知ってるし、朝と夜の着替えシーンもバッチリ見てるし、学校にいる間中だってずーっとスバル君のことだけ見てるんだよ!!」

「な、何でぇ!?」

とんでもない暴露に、スバルの涙混じりの叫び声が被る。

「僕は二十四時間何時でも草場の影からスバル君を見守ってるからね!」

…聞こえは良いが、その実態は…、

『ただのストーカーだよね、それ!?』

しかも、「草場の影」の使い方が違う。

「…それしきのことなら俺もしている。逃げられては困るからな…」

「いやぁああぁぁぁ!!」

遂に上がる悲鳴。

ツカサもソロも、何か色々と勘違いしているのではないだろうか。二人に向けられるスバルの視線は怯えきっている。

『…なんか、そろそろ可哀相になってきたなあ』

ロックマンの今更な呟きに応えるように、サーチが姿を現した。その表情は何処か険しい。

「双葉、ソロ。いい加減にしたらどうだ、星河が怯えているだろう」

見事なまでにドスの効いた声。ツカサは勿論、ソロですらビクリと肩を震えさす。

複数人からはた迷惑な愛情を向けられているのは彼女も同じなので、スバルには何処かしら親近感を持っているのだろう。故の恐怖を喚起させる台詞。

「……スバル君、ゴメン…」

「ツカサ君…」

「………今度からは十二時間に抑えるからね…」

「半分になっただけで大して変わってないよ!?」

ストーカー自体は続ける気満々だ。ソロに至っては鼻を鳴らすだけで、謝ろうとすらしない。…最低だ、本当に。

かなり微妙な空気と相成ろうとしていたこの時、遂に黙りっぱなしだったウォーロックが行動を始めた。

『………』

『あ、ウォーロック…』

『…さっきから黙って聞いてればよぉ……やっぱりてめぇらだったのか、スバルをストッキングしてたのは』

『いや、ストーキングね。何で下着になっちゃうの』

ロックマンが冷静につっこむが、ウォーロックは軽くスルーする。

『マジ帰れ、今すぐ失せろ、んで二度とスバルの前に出て来るんじゃねえっ!!−ビーストスイングっ!!』

いきり立つ声と同時に、スバルの半ズボンのポケットから碧翠に輝く長大な腕が姿を現し、ツカサとソロの鼻スレスレを勢い良く薙ぎ払う。

獣の精霊であるウォーロックの本性は、獅子をモチーフにした碧翠の魔力体。本性の腕だけを具現化させるなど、容易なことだ。

「っ…、やってくれるね、ウォーロック」

「………」

ムーの障壁に守られたソロはともかく、もろにくらいかけたツカサは鼻を押さえている。

「…今日のところは帰るよ。でも、スバル君のことは絶っ対諦めないから!!」

「……こいつと違って、俺は貴様とは因縁があるからな…」

ソロもまた、精神的に退くつもりはサラサラ無いのだろう。

『おととい来やがれ!変態共っ!!』

身を翻す二人の背に荒々しく台詞を叩きつけ、それからウォーロックは姿を現した。

本性ではなく、人型だ。ボサボサの碧翠の長髪がバサリと広がる。

「ったく、油断も隙もありゃしねえ…」

腰に手を当てながらぼやく彼に、サーチは底の見えない深紅の瞳を向ける。

「……何だかんだで、星河のことは大事なんだな?」

「まあ、そりゃあ……相棒だしな」

完全に放心しているスバルを介抱している熱斗−という、妙な図を見遣って、苦笑。

『何だか……、妹を必死で守ろうとするお兄ちゃんみたいだね、ウォーロック』

「お前と一緒にするんじゃねえ」

クスクスと笑いながらの揶揄に頬を微妙に赤らめながら。ウォーロックは吐き捨てるように言うと、さっさと姿を消してしまった。



10/09/13
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かなり久しぶりの流星陣営中心。ツカサとソロ好きです、好きだからこそこんな扱いなんです(え)ヒカルとラプラス出し損ねた…。
これまた久々のギャグオンリー。この二人永遠にギャグ要員かも(ちょい待てい)
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