惚れる
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最初はスカした奴だと、そんな印象しか持たなかった。次の印象は主馬鹿。
あいつが加わってから最初の任務の時だって、主の命令の方を優先しやがった。こっちは戦いたくて仕方が無かったっていうのに、よ!
後で、昔からの知り合いだというロックマンに、彼女はそういう風にプログラムされているから、ある意味仕方ないんだよ、とそう言われた。何処か、牽制するみてえに。
さらに後で知った話。ロックマンも、リーダーのブルースも。果ては、別のチームのリーダー…確か、カーネルっていったか…も。あいつに惚れていた。−正直、何を気に入ったのかが分からねえ。
俺やロックマンと違って、あいつは無機質だ。ただ淡々と、主に付き従うだけ。言葉も少ないし、感情表現もあんまりねえ。少なくとも、俺はそんな姿しか見たことが無い。
ところが、今はどうだ!何で俺まで−
「あらあ、どうしたの、ナパームマン」
「………出やがったな、オカマ」
「…オカマぁ…?…ナパームマン、それは誰に対して言ってんのかしら、ねえ…?」
「ぎゃああ!」
事実だろうが!とは言えず。いきなりマグミサイル連発はねえだろうがオカ……青マグネットマン!
青マグネットマン。まんま、青色のマグネットマンだ。NSタックルの時に出て来る、Sの方。テスラの嬢ちゃんに赤マグネットマン…Nがこき使われてる時にだけやって来て、台風起こして帰っていく。そんな奴。あんな口調だが、男だ(しかも、ナビ姿は結構ゴツい)。だから、オカマだ。…また言ったら、今度はカスタムボルト(当たり前のように、カスタムゲージ満タンギリギリ状態で)かましてくんだろうか。そうなったら…暴れ回る前に、デリートされる。そりゃ勘弁。
「何の用だよ…」
「あんたの百面相が面白かったから来ただけよぅ」
「……」
いなくなれ、今直ぐに。
んなこと思っても、こいつにゃ分かんねえ訳で。
「紫砲台のくせして、にやけたり沈んだりしてんじゃないわよ」
「うぉぉい!酷くねえかおい!!」
にやけんなってか、落ち込むなってか!?人(ナビ)権侵害で訴えんぞ、オフィシャルに!
ナビ姿のままだからか、とか思って、人間の姿をとる。今時のナビなら誰でも出来る芸当(っても、俺が出来るようになったのは燃次のナビになってからだが)。
「相変わらず、作務衣なわけ?」
「うっせえなぁ…」
燃次の真似事。って言われれば、それまでだ。…事実だけどよ。や、でもあいつツナギに前掛けだっけ…って、んなことどうでもいいんだっての!
「そうそう、ナパームマン。あんた、サーチのこと、好きなんでしょ?」
「っ!?な、何言ってんだ青マグ!んな訳ね……」
「んな訳?」
「……………あります、ハイ」
何でバレた!?よりによってコイツに!
「やっぱりねえ。チームが集まってる時のあんたの目、いっつもサーチのとこに向いてんですもの。……正直、バレッバレよ」
「ぐはぁっ!」
バ、バレッバレ、だと…!
うがぁ、と頭を抱える俺の態度を面白がってんのか、クスクス笑いながら、青マグネットマン…いちいちなげぇ、Sで良いやSで。…は一つの圧縮データをヒラヒラ、見せ付けるが如く振る。
「この中に入ってんの、彼女に関する情報よ。…軍側にシークレット指定されてたり、プロテクト掛けられてる情報が多くてね、ホント大変だったわあ」
「…はぁ…?」
「気にならなぁい?」
揺さ振りだ。…いくら俺が、メディの言う通り単細胞で馬鹿といえども、それぐらいは分かる。
「……何でんなもん持ってんだ」
「こないださあ、熱斗君とライカ君が言ってたじゃない。ネビュラ方が、ロックマンとサーチのコピーデータを持ってるって。ロックマンはさらわれてた時期があるから、その間にデータ採取されたんだろう、って簡単に推測出来るけど、サーチの方はよく分からないから。サーチの詳細データ確認がアタシらとテスラお嬢様に任された、って訳」
「…ライカが調べりゃ良いだろうが。あいつだって軍人だろ」
「軍人だからこそ、よ。…軍部って、恐いのよぉ?あんただってその辺は知ってんでしょ」
「…」
確かに、俺はとある国の軍事用兵器ナビとして開発された。
…軍部にとって必要無くなれば、あるいはその地位にそぐわぬ、出過ぎた真似をすれば。
呆気なく消される。そんなぐらい、知ってる。
「今のアタシらとお嬢様の背後には、IPCがある。IPCはアメロッパ軍との繋がりが深い。シャーロにとって、アメロッパは最大の好敵手にして脅威。そう簡単に手は出せない、って訳よ。第一、シャーロ軍だってサーチのコピーデータが出回ったら困るはずだわ。何せ、彼女は−」
「……彼女は?」
…薄ら寒い。言い方も、話の内容も、雰囲気も、何もかも。
「…シャーロにとって、あらゆる意味で最高傑作だから」
「最高傑作?…あいつが?」
主の命には絶対服従、言葉は少なく、表情はほとんど無く、自分の意思もそんなに無い。
そんなあいつが、そこまで大層に言われるほど凄いだなんて、到底思えなかった。
「そう。最高傑作なの。シャーロでは、彼女はロックマンやブルースと同じ立ち位置。…絶対に、真似されちゃいけないのよ」
彼女は、シャーロ政府の期待を背負ってんのよ。あの子と一緒に、ね。
そう続けて。Sはまた、データをヒラヒラ。
「ま、興味が無いんなら、これはリーダーに渡してくるわ。元々、その為の物だし」
「じゃあ、そうしてこいよ。…俺には、必要ねえ」
あいつの詳細なんざ、どうでもいい。難しく考えるのは嫌いなんだ。
…あいつは目に見えるままのあいつで、良いんじゃねえのか?
「そう。じゃあね、ナパームマン」
Sが背を向け、あっさり歩いて行く。…もち、データを持ったまま。
…あいつのデータ、なあ。
(…やっぱ、見ときゃ良かったかぁ?)
「何をしている、ナパームマン」
「っぎゃあ!?」
考えてる側から御本人登場かよ!
突然現れたサーチの瞳に感情は無い。んで、いつも通りの無表情。…何でこいつに惚れたんだか、自分でも分からねえ。
「な、何だよ急に…」
「…いや、用は無い。通り掛かっただけだ」
「……そうかよ」
うん、そうだったな。こいつに情緒を求めたところで無駄なんだよな。…あ、俺もか…。
「…そういや、お前軍属ナビなんだよな」
「それがどうした」
「…イヤになったりとかしねえのか?」
「?」
聞いたところで無駄なのは分かってる。俺と違って、サーチは根っからの軍属だ。…俺達ナビは、所詮そんな存在だ。何もかもがプログラム次第。
「ロックマンとか、ジャイロマンみてぇにさ、…オペレーターと自由に付き合いたい、とか思わねぇのか?」
「……」
…正直、即答するんだと思ってたぜ。本気で悩んでやがる。
主であるライカには絶対服従。それに何の疑いも持たない、持たせない。シャーロ軍に、そういう風にプログラムされてるんじゃないみたいだ。…じゃあ、はっきり自分自身の意思で従ってる、ってか?
「……俺が初めてライカ様に会った時…、ライカ様は、泣いていた」
「……へえ?」
あいつ、泣くんだな。ただの冷血漢にしか見えねえんだけど。
「ぐしぐしぐしぐしと、端から見ていた者には、みっともなく見えていた…んだろうな」
懐かしんでるんだろう。なんか、そういう風に聞こえる。
「…ライカ様がどう考えていようとも、それは軍部には関係無いことだ。それに、俺は最初に定められたオペレーターには絶対服従するようにプログラムされていた。…だから、意思を無視されたのは俺じゃない」
−お前が考えているより、俺「は」自由なんだ。
なんか、そう言われたような気がした。
「…だがな、今はよく分かっていない。プログラムに従っているからライカ様に付き従っているのか、それとも……」
−自分の意思で、ライカ様に寄り添っているのか。
よくよく見てみりゃ、さっきまでと表情が微妙に違う。困ってるっていうか、悩んでるっていうか。
「…お前、絶対ロックマンに影響された、とか言われたんだろ、周りに」
「っ!!」
図星。鉄面皮が崩れ落ちた。
…いや、うん。前言撤回。こいつ結構表情変えるな、うん。
「ま、俺は良いと思うけどな」
「…?」
分からねえだろうなぁ、今はまだ。
惚れた理由に気付けて、ついでにいつもしてやられてる分も返せて、今日のところはこれで満足だ。んじゃ、後はとっとと燃次のとこに戻るとすっかな。
あ…、やっぱり、データは見なくて良かったな、うん。
(見てたら絶対後悔してたぜ…)
10/08/27
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ナパームの口調が今だによく分からない〜(おい)最初三人称で書いてたのをナパーム視点に変えた結果、書く上での難易度が跳ね上がりました。
ナパ→♀サチなんてうちにしか無いんじゃないだろうか。ちなみに、前座で出した青マグ、好きです、はい。