海と歌うには哀しすぎた
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じりじりと照り付ける真夏の太陽、陽光に焼かれる白い砂浜。
此処は誰もいない島、オラン島。かつては特殊な鉱石の採取で賑わっていたが、あらかた取り付くされた今では、打ち捨てられた地となっている。
で、何故そのような場所にいるのかというと。
「アハハ、待ちなよぉ、エックスぅ〜!」
「ま、待てない!何でGランチャー構えながら走ってくるんだ!?」
「え?砂浜での追いかけっこって定番のシチュエーションなんでしょ?」
「それを聞いてるんじゃないって!俺が聞きたいのは、何でGランチャー持ってるのか、だ!」
「その方が面白いじゃん」
「…。ブルース、どうにかしてくれ!!」
「……悪いがお前にどうにか出来ないのなら、無理だ」
「そんな…」
「逃がさないよ、エックス!」
「逃げさせてくれぇ!」
最早、誰にもアクセルを止められない。
無邪気な子供の標的となってしまったエックスに、この場の誰もが哀れみの視線を向けるが、救いの手を差し延べることは決して無い。巻き添えにされれば、アクセルの手によって葬られることが分かりきっているからだ。
「休暇の時まで落ち着けないなんて……エックスさん、本当に薄幸だね…」
「…そう思うのなら、助けてやったらどうだ」
「絶っっ対イヤ」
…ロックマンの純度マックスの笑顔には、「僕はまだ消滅したくないからね」という主張がありありと浮かんでいた。
そう、セイバー達は祐一郎に休暇を与えられ、熱斗の鶴の一言で海水浴に来たのである。その際は関係の無い者には邪魔をされない場所を、ということでオラン島が選ばれた。
そして今、アクセルとエックスによる、生死を賭けた追いかけっこが始まっているのである。勿論、楽しんでいるのは追いかける役であるアクセルだけだ。…エックスもつくづく、不運な女性としか言いようが無い。
「そういえば、ライカとゼロは?」
「ゼロは波止場で釣りをしている。ライカは……、…パラソルの下で…」
「下で?」
「……死んでいる」
「「……え゛っ…」」
そんな馬鹿な。
炎山の呆れたような一言に、青ざめた熱斗とスバルが、持ち込んできて差したパラソルとアウトドア用折り畳みテーブルを見ると。
これまたアウトドア用のパイプイスに座り込んだライカが、ぐったりした様子でテーブルに突っ伏している。普段の苛烈な魔力や冷厳な雰囲気はなりを潜め、代わりに弱々しい生気。サーチが介抱しているが、大した効果はなさそうだ。
「ライカ、大丈夫!?」
「……」
力無く閉ざされていた瞼がのろ、と上がる。現れ出でた瞳の色は水晶色ではなく、紅玉。…どうやら、擬態する気力も無くなっているようだ。
「…熱斗……?」
「どうしたんだよ、らしくないぜ?」
「………るさい………いん、だ…」
「へ?」
「………っ、…」
「……ライカー?」
再び目を閉ざしたライカの眼前でパタパタと手を振るが、反応は全く無い。…どうやら、気を失ってしまったらしい。
さんさんと降り注ぐ真夏の陽射しは、雪国生まれ雪国育ちかつ、本来夜行性である青年には厳しいという類を越えていたのだろう。
「ライカ……、無理させてゴメンっ…!」
「え、何々?どうしたの?」
エックスを追いかけ回すのに飽きたのか、Gランチャーをしまったアクセルがひょこひょこと近付いてきた。碧玉の瞳はキラキラ輝いていて、…正直、何を仕出かすか分からない。
「ライカ君が、夏バテ状態なんだよ」
「ふーん…。…最強の妖魔も、形無しだね」
びしり、と空気の固まる音。
が、ライカは気を失っていた為、アクセルの無邪気な悪意に満ちた台詞は届かずに済んだ。
何だか微妙な空気が流れ出したその時。
「ブルース、手を貸してくれないか。思ったより重くてな」
波止場から、ゼロの低い声。どうやら、釣りを切り上げたようだ。人の手を借りなければならない程釣れたのだろう。
「分かった。……炎山様」
承諾を求める眼差しに、炎山はこくりと頷いた。
途端、風のように駆け出したブルースを見送り、彼女は再びライカに目を向ける。
(情けない、というか…)
哀れというか、何と言うか。
真夏の陽射しは容赦無く降り注ぎ、その日、ライカが復活することは遂に無かったそうだ。
10/08/03
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単に、夏バテライカを書きたかっただけの作品。RPG的パロは基本シリアスなんですが、こんな話もたまにはありでしょう。それにしても、アクセルの動かし易いことこの上ない……あ、書いてませんが、ゼロとブルース以外はみんな水着ですよ