調子狂うんだ
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『お前と同じ顔の、男の魔導師を見かけたんだが…』

−懇意の情報屋から告げられた一言が、ずっと頭の中を駆け回っていた。

「ナナシ、どうしたんだよ。顔色悪いぞ?」

「っ、煩い!」

相棒の心配そうな声に、逆に心は荒立ち。つい怒鳴り返してしまう。

語気にか、表情にか、言葉にか、それとも、全てにか。怯えたように、剣豪の少年は身をすくませる。

普段から飄々としているアルトのそんな様に、己の非に気付いたのか、ナナシは唇を噛み締めると、そのままうなだれた。…余程、情報屋からの言葉が気にかかっているらしい。

(……そりゃ、そうか)

ナナシは本来、数十年ぶりに生まれた、この国の新たな皇兄として国を支えるべき存在であった。そう、クーデターさえ起こらなければ、今頃は戦災孤児の流れ者である自分と肩など並べるような身分に落ちぶれている筈が無かったのだ。

今も彼は、引き裂かれた弟を探し続けている。その為になら、自分自身がいくら罪に汚れても構わない。声に出さずにそう叫びながら。

情報屋の言を信じるならば。ナナシの、行方も知れぬ弟は魔導師として活動していることになる。

が。

(範囲デカすぎるっての…)

男の魔導師なんて、それこそ数え切れないぐらいにいるのだ。万が一見つけ出せたとしても、「同じ顔」の「赤の他人」である可能性もある。せめて得意属性とか、そういう個人的特徴の一つでも分からなければ−

「なあ、ナナシ…」

「……もう少し、情報を聞き出す。…いくらなんでも、情報が少な過ぎる…」

居場所が分かって、そして、一目でも姿を見れば。必ず、分かる。弟だと。

ずっと、探していたのだ。引き離されたその日に生まれた、埋めようの無い孤独を抱えながら。

絶対に見つける。お前の方が分からなくとも、構わない。

無事に生きている、その様を見れれば、それで良いから…

願いながら、ナナシは身を翻し、情報屋の穴蔵へと歩む。アルトもまた、明らかに焦っている相棒の背を追い掛ける−





(…)

この国の皇帝となる資格を持って生まれ、民を統べる者として育てられ、そうして一生を終える筈だった弟。

王城から逃れた後も権威を求める愚者達に執拗に狙われ、ついにはかつての流刑地、シャーロに送られたという。

恐らく、もう、シャーロにはいないだろう。情報屋も、ニホンで見掛けたと言った。亜麻色の瞳の少女と、天馬を連れた少女、妖狼の青年と共に、何処か楽しそうに笑っていたのだと。

亜麻色の瞳の少女。伝説に登場する救世主。

(…調子狂うなー……)

アルトはこの伝説を本気にはしていなかった。この国の歴史をよく知るナナシが、過去の予言を伝説の形にして世間に流布させたのだと説明するまでは。

……「救世主」が現れている、と言うのは則ち…、そういうこと、だった。

(この世界に訪れる災いを、退ける者達…)

そこに、自分達も組み込まれているのだとしたら。焦らずとも、ナナシは弟と再会することが出来る。確証は勿論、無いが。

…再会しなければ、ならないと思うのだ。その為だけに、ナナシは沢山の手に入れられる筈だったモノを放棄したのだから。

−ナナシという、その名は。正確には「名無し」と書く。

(ホント、調子狂う…)

ここまで焦っている彼を見るのは初めてで。今まで結構いい加減に彼と付き合っていたアルトだったが、今この時、態度を改めて定めることとした。

「な、ナナシ」

「…何だ」

「俺はお前のこと、見捨てねえから。とんでもなく馬鹿なことやらかしても、さ」

「はあ?何を言い出しているんだ、薮から棒に…」

「べっつにぃ?言いたくなったから言っただけですよ、っと」

「意味が分からんぞ」

不愉快そうなその一言にも、アルトは笑うだけで、ナナシは本気で首を傾げた。





10/07/12
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オリキャラコンビ。あの、5での某偽者を膨らまして持ちナビも捏造した結果がこれな訳で…。通常設定ではアルトの方がナビっす。しかしタイトル擦れした中身…
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