躊躇う
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「……からぁ、ホントにそっくりだったんだよ!」
司令室に入ろうとした途端、そんな言葉が耳に入ってきた。熱斗だ。
「特殊メイクとかじゃなかったの?」
「最初はそう思ってたんだけど……友達に聞いてみたら、特殊メイクで人間の顔を真似るのには限度がある、って…」
どうやら、熱斗は誰かのそっくりさんに出会ったようだ。
何故か司令室に入るのが憚れるので、耳をそばだててチームメイト達の会話を聞く。
「特殊メイクではない、お前の言い口からして整形でもない、か…」
「顔だけじゃないんだよ。背格好とか、髪と目の色も全部一緒。…言っとくけど、染めてたとか、カラーコンタクトしてたって訳じゃ無いからな!」
人工物での色換えは、どうしても自然物の色とズレてしまう。それが無かったと、熱斗は言いたいのだろう。
『……要するに、正真正銘のそっくりさんが、熱斗とライカを掻き回してた、って訳か』
自分の名前が突然現れて、ライカの肩が跳ね上がる。
…そういえば、ネビュラの偽ロックマンに翻弄されて、熱斗と相対することとなった時。彼は確かに、そんなことを言っていた。
『声はどうだったんだ?』
「声?……似てた。もうちょっと高くしたら、本当にライカそのものって言っても良いと思う」
(!?)
どういうことだ。
サーチマンが息を詰めたのが、PET越しに伝わってくる。彼もまた、このような展開になるとは考えていなかったのだろう。
波打つ心臓の音を聞きながら、耳を扉に貼り付ける。
「じゃあ、何だ。ライカに兄か弟かがいる、とでも言いたいのか、光」
「そういう訳じゃ無いけどさ…。何か、気になるんだよ」
もどかしげな声。熱斗をフォローするかの如く、ロックマンの高い声が、後を引き継ぐ。
『ほら、ライカ君って…その、孤児だって言ってたじゃない。でも、もしかしたら…って思って』
…有り得ない話では、無かった。
物心ついた時から孤児院で日々を過ごしていたライカには、家族の記憶が無い。捨てられたのか、それとも親が死んだのか、それすらも知らない。兄弟はいたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。
ロックマンの言う通り、……もしかしたら。
『…ライカ様』
座り込んだ主に、いたわるような、叱咤するような声音で、サーチマンは名を呼ぶ。
サーチマンも、ライカの身内事情に関しては完全に把握していた。その上で、彼のナビになることを承知したのだから。当然、ライカが「そっくりさん」を気にしているのも、読み取れる。
「……」
分かっている。−今は、確証の無いようなことよりも、打倒ネビュラを優先しなければ。
立ち上がったライカは、何度か深呼吸して呼吸を整えると、一気に司令室への扉を開く。
「あっ、ライカ……」
熱斗と炎山、そしてテスラの視線。先程までの会話にはジャイロマンも参加していたが、チャーリーはいない。
「…もしかして、さっきまでの全部−」
「……今は、俺の「そっくりさん」はどうでもいいんだ。ネビュラを倒すことだけを考えていろ」
水晶色の瞳を僅かに伏せながら。呟かれたその台詞は、まるで。
『………それは、自分にむぐっ!』
余計な口は叩くなと言わんばかりにブルースが手を伸ばし、ジャイロマンの口を塞ぐ。微妙に鼻も塞がっているが、そこは気にしない。
「…」
奇妙な空気をぶち壊すかのようにチャーリーと燃次が来たのはこのすぐ後で、熱斗達が感謝したのは言うまでもない。
10/06/16
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
5の偽ライカさんの件。偽日暮さんもそうだけど、外見は全く一緒だよねー、と。という訳でナビ共々捏造中でございます(笑)