戸惑う
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すっかりお馴染み科学省の電脳で、四人のナビが睨み合っていた。困惑顔のサーチマンを囲って。

「…移動したいんだが……」

小さな声で訴えるが、誰も聞きやしない。−本当にこいつら、俺が好きなのか?

そもそも、彼には「恋愛」というモノが理解出来ない。普通、それは男女間のモノの筈で、自分達のような男男間で発生するモノだったろうか?

四人−ロックマン、ブルース、ナパームマン、カーネルはどうやら本気のようだが、自分は彼等は仲間であると思っていても、それ以上にはまるで考えていない。だから分からないのだろうか。

答えが欲しかった。けれど、そんなモノは無いようにも思えた。どうしてだろう。

つらつらと考えている間にも、四人の無言の睨み合いはヒートアップしていく。今にも腕を武器にリライトしかねない程に。

そこに割り込む人物は、いつも彼だった。

「そこまでにしてはいかがだろうか、四人方。サーチマン殿が困っておられる」

「ナイトマン…」

紫色の巨躯、右腕の鉄球。クリームランドの王女、プライドのネットナビ。自分勝手な者が多いCFナビメンバーの中でも誠実さは一、二を争う。人間と同じ姿をとれば、鮮やかに輝く金髪に涼やかな碧眼、普段からは想像出来ない細身の長身。これで白馬がいたら完璧だろう。まさに理想的な騎士様だ。

だが、サーチマンの頭の中にはそんな浮ついた考えは欠片も無い。毎回毎回この修羅場から救ってくれるので、ありがたいことにはありがたかったが。

「さ、行きましょうぞ、サーチマン殿」

「あ、ああ」

人間の姿になったナイトマンが、立ち尽くしていたサーチマンを四人の中から引っ張り出す。ロックマンが「抜け駆けだぁ!」と叫んでいたが、意味が分からない。毎度のことだが。

ずんずん歩いて行く。ナイトマンの足はそれ程速くは無いので、着いていくのは容易だ。

(そろそろ、ライカ様の元へ戻らねば…)

先程の騒動で、時間を大分喰ってしまった。

「……サーチマン殿」

「何だ?」

何処か真剣な響きを潜める呼び掛けに、平静と変わらぬ声で答える。

「…そなたは、先程の四人方をどう考えられておられる?」

「……仲間、だが」

何を突然、と思いながら、正直に答えると、ナイトマンはくるりと振り返る。白皙の面が、微かに朱色に染まっていた。

「ならば、某にも−」

「あっ、サーチマン!!」

どこか静謐な空気を見事に破壊したのは、元気良く手を振っているトマホークマン。

「こんなとこに居たのかー。ちょっと付き合って欲しい事があってさ、探してたんだ」

「そうか」

背の低いトマホークマンに合わせて、自分も屈む。柘榴石の瞳はキラキラ輝いていた。

「そういえば、ナイトマン。王女様があんたの事呼んでたぜ?」

「何っ、それは真か!?」

「ああ」

「今参りますぞ、王女!−サーチマン殿、トマホークマン殿、またいずれ!!」

言うや否や、ナイトマンは凄まじいスピードで走り出す。

その様を見送ったトマホークマンの表情が、にこやかなものから一転した。

「間に合って良かったぜ…」

「何がだ?」

「あんたの救助」

「救助?」

ナイトマンには特に何もされていない。寧ろ、あの修羅場から助け出してもらえて感謝しているぐらいなのだが…。

不思議そうな瞳で、サーチマンの思考に気付いたのだろう。トマホークマンは呆れた風に肩を竦める。

「ライカに頼まれたんだよ。サーチマンは戦いの時以外はぼんやりしている時が多いから、良からぬ輩に絡まれてたら助けてやって欲しい、ってな」

「良からぬ輩…」

別にナイトマンは犯罪者ではないし、それは他の四人にしたってそのはずだが。

思った事を率直に伝えると、少年は今度はがっくり肩を落とした。忙しい奴だ。密かに思う。

「そういう意味じゃなくってさ〜…、あんたを狙ってる奴って結構多いんだからな!」

「狙っている?…警戒は怠っていないのだが」

「だ〜か〜ら〜!違うっての!」

トマホークマンは子供型のナビだが、思考回路に関してはあのディンゴを主とするからか、他のナビ達よりも余程大人びている。少なくとも、目の前の天然ボケボケ且つ超鈍感青年ナビよりは恋愛沙汰のあれこれを理解していたし、対処方も分かっていた。

どうしてライカが自分にその手の方面に関する護衛を依頼したのか、物凄く良く理解すると同時に、自分に目線を合わせているサーチマンの肩をがっしり掴む。

「取り敢えず、あんたはもっと自分の置かれてる状況を理解しろっ!」

「……」

浅葱色の少年ナビの絶叫を聞きながら、サーチマンは何故トマホークマンはこんなに焦っているのだろう、と心中でぼそっと呟いた。当然ながら、呑気なそれはトマホークマンには聞こえなかった。



10/05/10
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サーチマンは恋愛沙汰には疎いと良い。トマホークマンはノーマル思考。
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